飯田高誉(本展企画監修者)
池田謙のつくりだす音楽と多重な映像環境は、鑑賞者を時間の外まで連れ出し、自らの神秘性やプラベートで閉ざされた記憶と断片的な物語性に耽溺させていく。イーノのアンビエント・ミュージックのように分子状になった音やノイズを体感させるものではなく、池田の作品は自らの闇い情動の知覚境界領域で起こっている、いくつもの「事件」を薄明りの中の実験室で克明に追っていき、細菌性の濃度を十分維持しながらイメージの象徴化や音の記号化へのベクトルを溶解させてしまう。新作「PICTURES」は、池田の愛している100本近い古い邦画の断片映像を限りなく編集しながら音楽を生成させている。音楽と映像の関係性は、単に映画のサウンドトラックということではなく、「つくりだす音には、イメージが内在している」(池田謙)からだ。「PICTURES」は物語の進行やシークェンスの連鎖はもとより放棄し、あたかも一枚の写真がある記憶の胎動や残響と結びついていて、あらゆる感覚を呼び醒まし、終には記憶の膨張や収縮を引き起こし記憶そのものを解体し再生させていく。他者とは永遠に分かちえぬ物語(ロマン)を個々人が紡ぎだし、孤独における無の充実感と他者には見えないカタストロフィックな痙攣運動を堪能できるのだ。
我々を取り巻いているバナルなメディアや社会環境は、内的思考や潜在的心理にまでたどり着かず、むしろそれらを押し潰しているのが現実である。つまりそれは、他者の強力な介入を悦んで導き、自らの主体性<死>を忘却し安楽死を望んでいる状態に近い。
池田の作品は、現実の日常的時間の順列に埋没せず、「時間の外で生きる」というもうひとつの現実を映しだしている。
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