aiko's Another World Creation&Expression

時に蒔く種
どこまでもどこまでも続く砂漠がありました。
ただひたすらに砂砂漠。砂漠の砂は長いことじいっと一人で居りました。
ざらざらざらざらさざめいてずうっと一人で居りました。
砂の砂漠を埋め尽くす砂粒達の数さえも 数えることができそうなほど
ながあいながあいながあい時を じいっと一人で居りました。
一体どれだけ一人で居たか 思い出すこともできません。
だけれど月のきれいなある夜 幾年ぶりかの雨の後 月夜になった夜のこと
ざらざらざらざら砂の中 小さな小さなサボテンが 恥ずかしそうに顔を出し
砂は一人でなくなりました。

砂漠の砂は嬉しくて 芽生えたサボテン祝福し きれいな歌を歌おうと
さらさらさらとささめきました。祝福されたサボテンは砂漠の砂に言いました。

「言葉、というものは、時と言う名の土に蒔く、種のようなものですね。」
そうサボテンは言いました。砂漠の砂に言いました。
「どうして時が土なんだい?」
砂漠の砂は聞きました。訝しそうに聞きました。
どうして小さなサボテンが開口一番言うことが 時は土だというような
謎かけめいた言葉なのかが 砂漠の砂には分かりません。
ずうっと一人の砂漠の砂は ざらざら乾いていつまでも一人であった『時』なんて
木々の新芽や花の芽が 芽吹く豊かな土になど 思えないのでありました。

「砂漠の砂さんあなたには、こんな思いはないですか?
ふうんと聞き流していた言葉 ある時ぱっと甦りきれいな花を咲かせるような
すっかり忘れたつもりの言葉 ある時ずきりと棘になるよな
そんな思いはないですか?」
そうサボテンは答えます。にっこり笑って答えます。

「うーんいまいちよく分からない。僕はずうっと一人だったし。
きれいな言葉もきたない言葉もかけて貰ったことなど無いよ。
だけれどさしずめこういうことかい?
きらきら光る言葉の種が楽しい豊かな時を経て心に花が咲くのかな?
ぐさぐさ痛い言葉の種が厳しく貧しい時を経て心に棘を刺すのかな?
どっちにしても僕のよな、からから乾いた砂のよな なんにもなくて
ざらざらと流れるだけの時の土では どんな言葉の種だって きれいな花など咲かないね」
砂漠の砂はさざめきます。ざらざら音が寂しそう。

「いえいえ、それが違うんです。時って土はもう少し、なんともいえず不思議です。
なるほど確かに時を経てきれいな花を咲かせる種は素敵な言葉であるでしょう。
きらきら光る言葉です。だけれどきれいな花が咲くのは、
ほんとにきれいな花が咲くのは豊かな土地ではないんです。
ざらざらざらざらあなたのような 乾いて寂しい砂地の中に 蒔かれるきらきら光る種
灼け付く日差しと氷る夜 いつまで続くかしれない乾き 何度も何度も枯れそうになる
厳しく貧しい土の中 じいっと過ごしてきた種は 恵みの雨が降ったなら 
ほんの一度の雨だって大きな花を咲かせます。きれいな花を咲かせます。

それから確かに時を経て心に棘さす言葉の種は醜い言葉であるでしょう。
じくじく嫌あな言葉です。だけれど聞いて砂漠の砂さん ほんとに痛い棘を産むのは
貧しい土地の種ではなくて、むしろ豊かな土地なのですよ。
手間暇かけて耕され たっぷり肥料も与えられ ぬくぬく過ごせる土の中。
そんな豊かな土にです、じくじくぎすぎすした種がちょっと蒔かれてしまうとですね
ほんとに痛い棘になります。たっぷり人手がかけられた あの美しいお城の薔薇が
ほんの少しの野の風で たちまち萎れてしまうかのよう。豊かな土地に生えた棘はね
ほんの小さな棘だって 心病ませてしまうのですよ」
そうサボテンは答えます。とくとくとくと答えます。

「なるほどそんなものなのかい。だけれどどうしてサボテンくん?
僕の中から出てきてくれた 一番最初のあいさつに こんなお話しするんだい?」
砂漠の砂は尋ねます。

「わかりませんか砂漠の砂さん?それじゃあ私のてっぺんをじいっと見つめてみて下さい。
小さな蕾があるでしょう?砂漠の月に照らされて 今 開こうとしています。」

やさしいやさしいやさしい声でそうサボテンは語ります。砂漠の砂に語ります。
そうサボテンに語られて 砂漠の砂は見つめます。
砂漠の月に照らされた小さな小さなサボテンの 緑色したてっぺんを。

するとみるみるみるみるうちに 小さな小さなサボテンの 緑色したてっぺんに
深紅の花が咲きました。小さな小さなサボテンがすっかり隠れてしまうほど
大きな花が咲きました。月の光に照らされて 鬱金のような砂の色
青鈍色の空の下 深紅に開くサボテンの花 夢見るように美しく
砂漠の砂に咲きました。

「ずっと一人の砂漠の砂さん あなたはいつも一人の時も ざらざら寂しく
さざめきながら 私に歌っていてくれました。

『もしも私に友ができたら どんなに小さな友であっても 私はあなたを祝います。
あなたを祝って歌います 砂漠の砂の私には せいぜい流れる砂の音を
さらさらさらと ささめくように 響かせるしかできないけれど、
だけれどそれでも心から 私はあなたに歌います 私はあなたを祝います。
もしも私に友ができたら どんなに小さな友であっても・・・』

・・・私は昔その昔 豊かな土にいたのです。小さな小さな種の頃 豊かな土にぬくぬくと
咲くこともなくいたのです。私が咲くのを待ち望む きれいな歌はあったのに
きれいな花など咲くものか 醜い花なら抜いてしまえと 脅かす声に怯えてしまい
ぬくぬく土が気持ちよく きれいな歌にも耳貸さず 咲くこともなくいたのです。

だけれどあるとき私は いたずらな鳥についばまれ 遠くお空に運ばれて
砂漠の中に落ちました。それからずっと幾年もあなたの中にいたのです。

ざらざら乾いた砂の中 灼ける日差しと氷る夜 厳しい厳しい砂の中 
ぬくぬく豊かな土にいた ひ弱い種の私に それはほんとに辛かった。
だけれどだけれどそんなとき あなたの歌が聞こえたのです。
私が咲くのを待ち望む 歌がどんなにきれいかを 私ははじめて知りました。
あなたの歌があったから たった一度の恵みの雨で 芽生えることができました。

そうしてあなたは歌った通り 私を祝ってくれました。私に歌ってくれました。
広い砂漠にひっそり生えた小さな小さな私を祝って歌ってくれました。
だから私は咲けました。こんなにきれいに咲けました。
ぬくぬく豊かな土の中では 決して決して咲くことのない きれいなきれいな花がです。

あなたの歌はきらきらと光る言葉の種でした。
乾いて厳しい砂の上 お城の庭の薔薇よりも ずうっとずうっと美しい、
花を咲かせる種でした。きらきら光る種でした・・。」

ながあいながあい時を過ごして
やっとのことできれいに咲いた
やさしいやさしいサボテンと
ながあいながあい時を過ごして
やっとのことでふたりになった
やさしいやさしい砂漠の砂は
乾いた厳しい砂の中でも、お城の庭の薔薇よりも、
ずうっとずうっと美しくずうっとずうっと幸せに
いついつまでもいつまでも過ごしていたのでありました・・・


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