このページは、水野愛子がhsj法政治学部で担当したNews講義(メーリングリストを使ったゼミのようなもの)を再現するものです。下記の講義は96/03/20のものです。
あくまで一学生の作ったレジュメにすぎませんから、このデータを利用されたことについての責任は負いかねます。また、このページの著作権は当法律自習室に帰属します。
こんにちわ。水野です。すごく久しぶりに民法Newsを流します。
今回は、損害賠償の範囲に関する416条についてです。
(債権者代位権の方も、完結させる気はあるので、見捨てないで下さいね(^_^;)
例によって会話形式でNewsを進めていきます。
(この問題についてより詳しく知りたい方は、問題7レジュメまで)
登場人物
舞楼蝸亜(ぶろうかあ)…土地のブローカー
契約堅持(けいやくけんじ)…舞楼の顧問弁護士
- 舞楼
- 「契約先生、ちょっと相談なんすけどね。」
- 契約
- 「何でしょう。」
- 舞楼
- 「実はですね、先月(×年2月)、hsjって団体に甲土地を売る契約をしたんですけどね、今月(×年3月)になって急に、水野愛子って女が甲土地を欲しいっていって来まして、hsjの提示した値の5割り増しまでならつける用意があるっていうんですよ。
甲土地が1000万だから、あの女が1500万出してくれるって言うんならそっちに乗り換えようかと思いましてね。
いちおう、何かまずいことがないか確認しようかと思いまして。」
契約「そのhsjとは既に売買契約を交わされたんですね。だったら、5割り増しが倍額でもさして契約を破るメリットはありませんね。」
- 舞楼
- 「え、だって先生、以前教えて下さったじゃないですが。土地の二重譲渡があった場合、後からでてきた奴がたとえ自分より先にその土地を買う契約をしちまってた場合でも、背信…何でしたっけ?」
- 契約
- 「背信的悪意者(単に知ってたに止まらない悪い奴)」
- 舞楼
- 「そう、その何とかにあたらない限り、こっちが登記さえ移してやれば水野は所有権取得できるんでしょう。別に水野がそれにあたるって訳でもないんだし、hsjにはまだ登記も移してないし、何か他にまずいことがあるんすか?」
- 契約
- 「水野さんに所有権を取得させられるかどうかについてはおっしゃるとおりですが、それをしてもあなたに結局経済的なメリットがないんですよ。」
- 舞楼
- 「そりゃまたどうして?」
- 契約
- 「あなたが水野さんに甲土地の登記を移した時点で、hsjに対する甲土地の引渡し債務は履行不能になりますよね。そして、舞楼さん、あなたはhsjに対して債務不履行による損害賠償責任を負いますよね。」
- 舞楼
- 「そりゃ、まあ、契約を破ってるんですからな。」
- 契約
- 「その損害賠償で、水野さんから得た利益を全部hsjに吐き出さなくちゃいけないことになるんですよ。差額で儲けるつもりの500万全額ね。」
- 舞楼
- 「えっ、なんでですか!だってhsjはそんな高値で甲土地が売れるって知らないんすよ。あっしも多少勉強して、民法416条を読んできたんです。
土地が特に高く売れるとかの特別事情による損害は当事者がこれを予見したときか予見できたときに賠償させるって2項にあるじゃないすか。これって、あっしとhsjの両方が知っていた場合って訳じゃないんですか。
それに、損害賠償ったって、契約したときにわかってたことと、おまえそりゃわかっただろっていう事情の範囲で賠償すりゃあいいんじゃないですか?」
- 契約
- 「416条の文言を見れば確かにそうも読めますし、比較法的には舞楼さんのおっしゃるように、特別事情による損害については、債権者債務者の当事者双方(この場合だと債権者=hsj、債務者=舞楼さんですね)が予見し又は予見し得た事情による損害は賠償させるというのが原則ですし、予見可能性の有無の判断基準も契約締結時を基準時とするのですが、日本の民法ではそう解していないのです。比較法的には非常に珍しいんですよ。ウイーン売買条約でも契約時の予見を採用してるというのに…」
- 舞楼
- 「(契約の話を遮るように)あの、よその国の話はどうでもいいっすけど、結局のところどうなるんすか?」
- 契約
- 「(ちょっとむっとするが気を取り直して)日本では、債務者のみが予見していれば足りるとされます(通説)。また、予見すべき時は債務不履行時が基準です(判例)。
つまり、あなたの例でいえば、債務者であるあなたが債務不履行するとき、すなわち、水野さんに甲土地を売るときには、あなたは甲土地が1500万で売れることを当然知っていますよね。あなたが売るんですから。
それは、同時に、hsjが本来その高い価値の土地を所有したり転売したりすることができたのにその利益を得られなくなったということを意味します。
あなたは当然そのことがわかるのですから、たとえいったん差額で儲けたとしても、それはhsjが得ることのできたはずの利益であり、また舞楼さんは予見していたものとして損害賠償されることになります。」
- 舞楼
- 「ええ〜、そうなんすか!だったら誰も二重譲渡なんてしませんよ。二重譲渡の話にある、途中から契約に割り込んだやつ(第二譲受人)でも前の奴(第一譲受人)がいることをただ知ってたぐらいなら「自由競争」の範囲内だっていうの、意味ないじゃないすか。」
- 契約
- 「いいところに気がつきましたね。最近は自由競争の論理には説得力が乏しいといわれだしていますよ。実際、二重譲渡の判例は殆どが第二譲受人の方から積極的にアクションを起こしたものばかりですし、、」
- 舞楼
- 「そうなんすか。でも、なんで日本だけそんなん何すか?」
- 契約
- 「日本法には、債務不履行における損害賠償を債権者に厚く認めることによって債務の履行を確保し、違反を抑制しようというポリシー、契約は守られなければならないというぽりしーがあるようですね。
悪意(知っているという意味)の債務者が不履行によって利益を得るようなことは認めるべきでない、という配慮が、判例を不履行時における予見可能な損害まで賠償させるのが望ましい、という見解にさせているのではないかという気がします。」
- 舞楼
- 「へえ〜。じゃ、アメリカとかだとどうなんすか。」
- 契約
- 「アメリカ法では、履行を確保するためというよりも、損害賠償を払って不履行をする自由を債務者に与えるというところがありますね。
こちらでは、債務者がその契約を履行するか違反して損害賠償を支払うかは、合理的に計算し選択された結果によって導かれると言えますね」
参照条文
416条(損害賠償の範囲)
1 損害賠償の請求は債務の不履行に因りて通常生ずべき損害の賠償を為さしむるを以て其目的とす
2 特別の事情に因りて生じたる損害と雖も当事者が其事情を予見し又は予見することを得べかりしときは債権者は其賠償を請求することを得
参考文献:民法判例百選(第四版)No.8判例
内田勝一 債権総論講義案
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"A study" by Aiko Mizuno
96/03/27/released
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