で、その判例というのは、平成7年9月19日にでたもので、
まだ公式の判例集などには載っていませんが、法学教室の184号で、
加藤雅信先生が評釈してらっしゃいます。
「実質的」な判例変更、という言い方がされるのは、
その判例では、ブルドーザーケースの件については全然触れていない
からと言うこと。正式な判例変更ではないようです。
判旨だけ書きます。
(丙の所有する建物を賃借した乙からの注文により請負人の甲が
建物を修繕した事案において)
『建物の所有者丙が法律上の原因なくして…修繕工事に要した
財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、
丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、
けだし、
丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相当する
出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくもの
というべきであり、
甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することが
できるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。』
つまり、この判例でいくと、たとえば賃貸人丙と賃借人乙との間に
賃貸人の修繕義務(606条)、賃借人の支出した必要費の償還請求(608条)
を排除する特約あった場合で、(#両規定とも任意規定です。)
その特約が賃貸人を一方的に利させるようなものではなくて、
(そういう特約をおくかわりに通常よりも安い家賃になっていて
経済的なバランスのとれている場合など)賃貸人も賃借人が
建物の修繕をすることで得られる利益に『相当する出捐または負担』
をしたときは、賃貸人が得た『建物の修繕によって建物の現状を維持
できた利益』は法律上の原因がある、ということになるわけです。
結局、上記のような状況であれば、工事を請け負った甲は、たとえ
工事を委任した賃借人乙が失踪してしまったり無資力になってしまっても
賃貸人丙に対して修繕費用相当額を不当利得として返還請求できないわけです。
「物」に利得が現存していれば(まあ、物なら大抵利得は現存してるでしょう)
他人の支出した労務・財産(損失)と利得との間の因果関係の直接性を
相当緩和して転用物訴権まで認めてしまった昭和45年7月16日〜いわゆる
ブルドーザーケース〜と比較すれば、実質的な判例変更といえるでしょう。