〔30一債権の二重譲渡と相殺〕
 AはBに対して貸金債権を有し、BはAに対して売掛代金債権を有していたが、Bはこの売掛代金債権をCとDとに二重譲渡し、いずれの譲渡についても確定日付のある証書によってAに通知し、その通知は同時にAに到達した。その後、Cは、Aに対し、この売掛代金債権を自働債権とし、AがCに対して有していた貸全債権を受動債権として相殺する旨の意思表示をしたところ、AはCに対して、AのBに対する前記賃金債権を自働債権とし、この売掛代全債権を受動債権として、相殺する旨の意思表示をした。この場合におけるA‐C間の法律関係について論じなさい。

1、指名債権の二重譲渡の優劣

   Cが譲り受けた債権の全額を相殺する前提として、Cの債権がDや債務者 Aにたいしても対抗できるものでなくてはならない。

     確定日附先後説なら…Cの方が確定日附が早ければ、Cに債権帰属
   到達先後説なら…同時到達なので、CDの優劣は決まらない

 2、確定日附のある譲渡通知が同時に到達した場合(到達先後説)

 C・Dの優劣の決まらない場合でも、Cは完全な債権者として、全額相殺できるのか、それともどちらも完全な債権者ではないのだろうか。

  1全債権対抗説 C・Dとも、債権の全額を請求できる。
 →Cは全額相殺できる
  2全債権否定説 C・DともAに対し完全な債権者ではない
 →Cは相殺を主張し得ない。
  3別基準説 通知・承諾の日付の先後によって決定する
 →Cの方が日付が早ければ、全額相殺できる。

 判例(最判昭和55.1.11):同時到達の場合、C・DはAに対して全額請求できる。

 Cが、Aにたいして完全な債権者であると解した場合、Cの相殺の意思表示は有効である。では、Cの相殺の意思表示とAの相殺の意思表示とはどちらが優先するのか。この問題の前提として、今度はAの相殺の有効性が問題となる。

 3、Aの相殺の有効性

 受働債権となる売掛代金債権が譲渡された債務者Aは、反対債権である貸金債権を自働債権とする相殺(逆相殺)ができるか。(受働債権が譲渡された後の相殺の可否の問題)

 第468条2項
 譲渡人が譲渡の通知を為したるに止まるときは債務者は其通知を受くるまでに譲渡人に対して生じたる事由を以て譲受人に対抗することを得

 Aは、Bに対して貸金債権(反対債権)を有していたことを、468条2項にいう「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」としてCに相殺を主張することができるのだろうか。

 ☆Aが民法468条2項の事由を主張するための条件☆

   1無制限説(最判昭和50.12.8民集29-11-1964)
   債権譲渡があったときに債務者が譲渡人に対して反対債権を有していれば、たとえ反対債権(自働債権)の弁済期が譲渡債権(受働債権)よりも後でしかも譲渡通知の後に弁済期が到来するものであっても、相殺適状が生じた時点で債務者は相殺を主張できる。

   理由:

(1)民法468条2項の趣旨は、債務者に関係なくされる債権譲渡によって、債務者が、譲渡の前に比べて不利になるのを防ぐことにある。債権譲渡によって債務者が相殺できる地位を失うのは、468条2項の趣旨に反する。
(2)相殺できるということは、債権者にとって、自働債権に担保権を付するのと同じである。債権譲渡の前に互いに同種の債権をもつ者は、弁済期の先後に関係なく対当額で清算され、確実に弁済を受けるとの期待を有する。その期待を保護すべきである。
  →1無制限説 Aは譲渡通知前に反対債権を有していたから、Aの相殺は有効である。

 2相殺適状説
   債権譲渡の通知までに、相殺適状にあることを要する。

 理由:

(1)相殺適状にあれば、Aには相殺への合理的な期待が存在している。
(2)通知時に相殺適状がない場合までAの相殺を許すことは、Cの取引の安全を害する。
 →2相殺適状説 AB間で相殺適状であった場合…Aの相殺は有効
         AB間に相殺適状がなかった場合…Aの相殺は無効

 3制限説
   自働債権の弁済期が受働債権より先に到来する場合に限り、相殺を譲受人に主張できる。

 理由:

(1)弁済期が先に来る債権をもつ者の、相殺で債権を清算できるという期待は合理的である。
(2)受働債権の弁済期の方が早ければ、直ちに弁済を請求されれば、 相殺適状になる前に弁済せざるを得ない。

 →3制限説
 A→Bの貸金債権の方が、B→Aの売掛代金債権よりも弁済期が早かった場合…Aの相殺は有効
A→Bの貸金債権の方が、B→Aの売掛代金債権よりも弁済期が遅かった場合…Aの相殺は無効

 Aの相殺が有効であるとしても、本問では、Cが先に相殺の意思表示をしてしまっている。果たしてどちらの相殺が優先するのか。

4、Cの相殺の意思表示の後の、Aの相殺

  1相殺意思表示先後説(最判昭和54.7.10)

転付債権者(C)に転付された債務者(B)の第三債務者(A)に対する甲債権(本問のB→Aの売掛代金債権)と第三債務者の転付債権者に対する乙債権(A→Cの貸金債権)とが甲債権と第三債務者の債務者に対する丙債権(A→Bの貸金債権)とより後に相殺適状になった場合でも、丙債権を自働債権とし甲債権を受働債権とする第三債務者の相殺の意思表示(AのCに対す流相殺の意思表示)より先に、甲債権を自働債権とし乙債権を受働債権とする転付債権者の相殺の意思表示(CのAに対する相殺の意思表示)が為されていた場合には、第三債務者による右相殺の意思表示は効力を生じない。

相殺の優劣は、相殺適状の先後ではなく、相殺の意思表示の先後で決まる

  理由:

(1)相殺は意思表示によって為す。(506条1項)
(2)Cの相殺の意思表示により、CのAに対する債権たる売掛代金債権(もとはBのAに対する売掛代金債権)は既に消滅した。Aの後の相殺の遡求効(506条2項)は、Aの相殺の意思表示以前に生じた受働債権の消滅という事実を覆すことはできない。つまり、Aが相殺の意思表示をしようとする際、受働債権が既に消滅しているので、相殺適状にない。
(3)債権回収により勤勉である者を保護すべき
 →1相殺意思表示先後説 先に相殺の意思表示をした、Cの相殺が優先する。

   2相殺適状先後説

     相殺適状の先後によって、相殺の優劣を決する。

 理由:

(1)相殺の期待という利益を保護すべきである。単に相殺の意思表示の早い者勝ちで相殺の優劣を決するのは妥当ではない。どちらが相殺へのより強い期待を客観的に有していたか、つまり各自の自働債権の弁済期の先後=相殺適状の先後によって、優劣を決すべきである。
(2)1相殺意思表示先後説によると、Aの相殺への期待がBのCへの債権譲渡によって簡単に奪われる。AがCから売掛代金債権の弁済を請求された場合、Aは相殺で対抗できるのに、Cが弁済請求でなく相殺をした場合には、Aは相殺を以てCに対抗できなくなる。弁済と相殺という単なる法形式の違いで結論に多きな差が生じるのは妥当でない。

 →2相殺適状先後説

 Cの売掛代金債権(もとのBマAの債権)の弁済期がAのBにたいする貸金債権よりも弁済期が早い場合…Cの自働債権の弁済期の方がAの自働債権の弁済期よりも早いので、Cの相殺が優先する

 Cの売掛代金債権(もとのBマAの債権)の弁済期がAのBにたいする貸金債権よりも弁済期が遅い場合…Cの自働債権の弁済期の方がAの自働債権の弁済期よりも遅いので、Aの相殺が優先する


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"A study" by Aiko Mizuno
96/03/07/released
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