
契約を破る自由
損害賠償の方法〜金銭賠償主義
損害の概念〜差額説と現実的損害説
損害の種類
損害賠償の範囲〜制限賠償主義と完全賠償主義
損害賠償の範囲〜通常損害と特別損害
損害賠償の範囲〜相当因果関係説
損害賠償の範囲〜保護範囲説
損害の予見可能性
アメリカ法との対比
予見可能性の判定時期
予見の挙証責任
損害賠償額算定の基準時
※債務者はどちらがより自分にとって有利な結果をもたらすかを合理的に計算していずれかを選択する。(つまり、不履行をするのが契約を履行するよりも有利な時には当然に不履行をする。)
アメリカの債務不履行法の制度趣旨…損害賠償を払って不履行をする自由を債務者に補償する
2、損害賠償の請求…415〜422条
履行遅滞、履行不能などによって契約を破ることで、どれほどの範囲まで債務者が賠償責任を負わされるかを検討する前に、損害賠償の意義・性質についてもう少し触れてみよう。
i損害賠償の方法…金銭賠償主義(417条)
ii損害の概念…差額説と現実的損害説
この「不履行の前後における債権者の財産状態の差」、つまり、金銭的評価によって示される全財産の減少を損害と考える説(損害賠償=差有無不履行という事実によって惹起された「損害」を「賠償」すると理解する。)
_現実的損害説
iii損害の種類
2積極的損害・消極的損害(3の財産的損害を現在的損害と将来的損害に分けたもの)
3履行利益・信頼利益(積極的損害・消極的損害に類似する概念)
4通常損害・特別損害
制限賠償主義:通常の事情+事情を予見していたor予見可能であった特別の事情から生じた損害を賠償
2.通常損害と特別損害
1判例が通常損害とした事例
2判例が特別損害とした事例
ただし、例えばおなじ「転売利益」から生じた損害といっても債権者の職業等(問屋なのか最終消費者なのかなど)によって転売が通常予想されるものかどうかが変わってくるので、通常損害か特別損害かという分類は必ずしも一義的なものではない。
通常損害か特別損害かを判断するために考慮されるべき事情
3.相当因果関係説と保護範囲説
1 相当因果関係説(判例)
賠償すべき損害は債務不履行より生ずる損害のうち通常予想される因果関係(相当因果関係)の範囲に限定する。
2 保護範囲説
a 事実的因果関係…416条外の問題
4.予見可能性
2予見可能性の主体
なぜ、日本の判例は予見可能性の主体を416条の文言に反した『債務者』という結論を採るのだろうか?(判例理論は有力説よりも賠償範囲を拡大することによって債権者を厚く保護することを目的としている。)
アメリカ債務不履行法の制度趣旨
日本の債務不履行の制度趣旨
この趣旨の違いが、損害賠償の範囲の問題にも関わってくる。ひとたび結ばれた契約の履行を確保するのが趣旨であるのだから、もし、不履行によって損害賠償責任を負うよりも新たに介入した第三者の提示した条件でもとの契約を破ってでも新たに契約を結んだ方が債務者にとって有利になることが頻繁に起こりうるなら、損害賠償制度は違反の抑制については何ら抑止力を持たないことになる。
つまり、逆に言えば、日本法における損害賠償の範囲はいったん結んだ契約を破棄してまで二重契約をするメリット、積極的な意味を与えていないと言える。
3予見可能性の判定時期
4予見の挙証責任
これまでに述べたように、損害賠償の範囲は416条によって通常損害、特別損害、予見可能性という概念で確定される。確定されると、今度は現実の損害を金銭に換算する必要がでてくる。
このとき、裁判所は下図のどの時点におけるXの損害を算定して支払いを命ずべきか?
この期間に…
したがって、口頭弁論終結時までの諸般の事情を考慮して、契約不履行がなかったならば存在するであろう利益を賠償するかを算定しなければならない。
そしてそのリーディングケースが富喜丸事件です。
参考文献 内田勝一「債権総論講義案」
1、現実的履行の強制…414条(但し、不履行の効果ではなく、債権それ自体の有する直接的な効力であって、不履行について債務者の帰責事由はいらない。)
i本来の給付に代わるものとしての賠償…填補賠償(契約解除の時)
ii 本来の給付と共に請求することのできる損害賠償…遅延賠償(履行遅滞の時)
3、契約の解除…541〜548条 債権関係が契約に基づいて成立した場合には解除できる。
日本…損害を金銭に評価し、その額を支払う。(金銭賠償主義)
ドイツ…損害が発生しなかったときと同様な状態を現実に実現させる。(原状回復主義)
→差額説に対する批判;
◎財産的な損害については当てはまるが、非財産的な損害には妥当しない
◎ドイツのような原状回復を原則とする完全賠償主義の構造と結びつくものであってわが国の法制度には適合しない。
債権者が不履行によって被った不利益それ自体を損害と考える。(債務不履行によって債務が 給付されなかった場合には物が給付されなかったことそれ自体が損害。)
そのことを前提として、賠償されるべき損害の範囲の確定とその金銭的評価を行うことになる(417条…金銭賠償主義)。
1財産的損害・非財産的損害
財産的損害…債権者の財産上に生じた不利益(生命・身体上の不利益も含む)
非財産的損害…通常「慰藉料」といわれるもの。債務不履行の場合には明文上の規定はないが、不法行為(710条)との均衡から債務不履行にも認められる。
積極的損害…既存財産の減少(例;物の破損、修理費など)
消極的損害…債務不履行がなかったならば得られたであろう利益(得べかりし利益)。
(例;転売利益、営業利益、休業・死亡などによって失った利益)
履行利益…契約が有効であった事を前提として、それが完全に履行されることによって受ける利益。債務不履行がなかったであれば受けられたであろう利益のこと。
信頼利益…契約が無効・不成立であった場合に、無効であるにも関わらず有効であると信じたことによって被った損害(例;契約締結の費用など)
416条の検討の場面で詳述する。

完全賠償主義:債務不履行と因果関係のある全損害について賠償
債務不履行があったときの損害賠償の範囲を限定するための法的概念として、日本民法は通常損害、特別損害、予見可能性という3つの概念を用意している。
通常損害…社会通念上布履行があれば通常発生するものと考えられる損害
特別損害…特別の事情によって発生した損害
・買主が転売契約を結んでいたときの転売利益(大判大10.3.30)
・買主が第三者に債務不履行の損害賠償を支払ったときの損害賠償額(大判明38.11.28)
・履行がないので第三者から代替物を購入したときに購入代価(大判大7.11.14)
・買主が目的物を利用して取得する予定の営業利益(最判昭39.10.29)
・不履行後の目的物の価格の騰貴分(大判大15.5.22)
・買主がたまたま買い受け価格の3倍の値段で転売する予定であったときの転売利益(大判昭4.4.5)
a 目的物の種類(有価証券、動産、建物、山林、土地、船舶等)
b 当事者の職業(商人、問屋、小売店、消費者)
c 契約の目的(転売、賃貸借、一時的、継続的等)

416条は債務不履行と事実的因果関係の認められる損害のうちどこまで賠償賠償責任を負わせるかの範囲(保護範囲)を定めた規定であるとする

b 保護範囲…aの存在が認められたら、bによってどこまで賠償させるこという裁判官による政策的価値判断を行う(416条の問題)
c 損害の金銭的評価…416条外の問題
1予見可能性の対象
債務不履行に関連して存在した「特別の事情」(416条2項)
判例・通説:債務者…債務者に予見可能であれば賠償させてよい
有力説:債権者・債務者の双方…ウ当事者という文言、エ債権者に予見不可能であれば損害賠償はあきらめさせるべき
損害賠償を払って不履行をする自由を債務者に与える>違反の抑制による履行の確保
債務不履行による損害賠償を債権者に厚く認めることにより債務の履行を確保し、違反を抑制しようとする趣旨
債務不履行時説(判例・通説)…債務不履行時に損害の発生を予見しまたは予見しうべきであったにもかかわらず不履行を為した者は賠償の責任を負わされるべき。
契約締結時説(保護範囲説の主張)…契約の解釈は契約締結時の状況を背景として行われるから、その時点で予見され得た事情に基づく債権者の利益のみが当該契約に組み込まれ、保護される。
債権者…損害の発生、損害と債務不履行との因果関係の存在、損害が損害賠償の範囲内のものであることについて立証責任を負う。また、損害が通常損害であること、特別事情による損害の時は債務者に予見可能性があることについて立証責任を負う。
この損害が例えば貸金債権の返済がない場合といったように直接的な金銭の被害であれば、金銭評価の問題は生じない。(貸金債権の場合:損害=貸金額+遅延利息相当額)
しかし損害が給付請求権の喪失の場合、損害が一般に目的物の価格として表示されるような、債権の目的物の金銭的価値が変動するような場合には基準時をどこに設定するかが重要な問題になってくる。


つまり、債権者は債務不履行がなければどのような利益を取得する可能性があったかという債権者の利益取得の可能性を基準として損害を算定するのである。
メ
どの時点での目的物の価格が損害として現実化する蓋然性がもっとも高かったか
基準時についての詳細な説明はそちらでやってみたいと思います。
錦織成史「損害賠償の範囲の決定基準」ジュリスト増刊・民法の争点
construction by A.M