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一、はじめに
ここ数年来の、パソコン通信・インターネットなどの飛躍的な普及は、一介の個人の発信する情報が、その内容が発信前に全くスクリーニングされないで不特定多数人に提供されるという形態の情報発信をもたらした。その規模は、我が国においても、平成9年(1997年)10月現在で、推定利用者約1000万人、 インターネット接続サービス提供事業者の数も、2300社を超える。
このような形態でなされる情報発信は、第三者による編集の過程を経ないため、名誉・信用の毀損、プライバシー侵害、著作権侵害などの不法行為を構成するときがしばしばある。これを、TV、新聞などの従来のメディアによる情報発信による不法行為とを比較したとき、不法行為責任の成立にあたって、異なる問題は生じるだろうか。
思うに、従来のメディアを利用した場合であろうとインターネットを利用した場合であろうと情報内容の第一次的な責任者である情報の発信者(content originator)の場合、加害者の特定が困難、情報発信者に資力がないことも多い、といった事実上の問題はあるが、不法行為責任成立の要件を満たす限り実体法上不法行為責任を負うことは当然である。その点での、従来のメディアと比べた特別な問題は少ないのではないかと考える。
ここで着目したいのは、ネットワークを通して情報発信をする個人のほとんど(専用線を引いて直接ネットワーク上で情報発信をしている場合は別として)は、インターネット・アクセス・プロバイダー(以下、プロバイダー)やパソコン通信会社、あるいは大学や企業のサーバーなどに情報発信の仲介を受けているという事である。
これらのネットワーク情報仲介者はユーザーである個人がネットワーク上で不法行為を構成する情報発信をした(ユーザーが加害者)場合、あるいは、そのような違法な情報発信(発信した情報内容が違法)によって被害を受けた(ユーザーが被害者)場合に、果たして不法行為責任を負うのか、負うとしてどのような範囲で負うのか、また、違法な情報発信の行われる事前又は事後において、加害者の特定や加害者のIDの停止・削除等の対応をとらねばならないのか、とらねばならないとすればそれを義務づける根拠はなにかといった問題に対する検討が本稿のテーマである。
なお、本稿で扱うのは、ユーザーの発した情報の内容が違法であったことで他のユーザーないし第三者に損害を生じさせた場合を想定しており、セキュリティ機能を備えていない電気通信設備でサービスを提供しているプロバイダーであったため、あるいは最新機能を備えた設備へのグレード・アップを怠っていたため、パスワードや個人情報が流出したり、なりすましがおこなわれたりしてユーザーに損害をあたえたといった、その時点で通信事業者が備えているべきセキュリティ機能の基準を客観的に満たしていないために違法な情報発信を誘発した様な場合の責任には踏み込まない。個々の事例の具体的な状況に応じて、プロバイダーの債務不履行責任として構成し、保護義務や安全配慮義務の違反を考えていけばよいと思われるからである。
議論の進め方としては、電子メディアの従来のメディアとの差異及びその際から生じうる問題点をまず指摘し、それに対してとりうべき措置を論じていきたい。
なお、ネットワークを利用したメディアには様々な形態のものがあり、どのようなものを議論のモデル形にするかも一つの問題であるが、ここでは、原則として我が国において一般第一種または第二種電気通信事業者として事業を営んでいるインターネット・アクセス・プロバイダーをモデル形とし、違法な情報が発信された情報発信態様については、公開されているホームページによっていた場合を中心とすることにしたい。
上述のように、ネットワーク情報仲介者には様々な類型があり得るが、今後発生するであろう事例の多数は、インターネットを利用したネットワーク情報仲介それ自体を業として行っている電気通信事業者であるプロバイダーが関わるものになるであろうと予想されるからである。 |