六、最後に

 ネットワーク上での情報発信と不法行為を考えるにあたっては、これまでに述べた幾つかの事項の他にも、様々な考慮すべき事項が存在する。
 まず、第一に、これまで、電気通信役務の提供を業として行う営利法人であるプロバイダーの場合を前提として論じてきたが、インターネット接続をユーザーに提供するネットワーク情報仲介者というだけでも様々な類型があり得る。
 学生にインターネット環境を提供する大学などの教育機関もそうであるし、被用者に自社のサーバーを使用させる企業などもネットワーク情報仲介者の一類型である。これらそれぞれの類型ごとに、ユーザーとネットワーク情報仲介者の間の契約内容、ネットワークを利用させる目的などが異なっており、それがネットワーク情報仲介者の責任の在り方にも影響を及ぼすものと思われる。各類型ごとにふさわしい責任の在り方を検討すべきである。(例えば、教育機関での場合を考えると、学校との間で就学契約を締結する学生の法的な身分はどのようなものか、また、そのような契約を締結することによって組織される学校という一種の部分社会の構成はいかなるものか、その中で各種の施設利用関係が生じてくるとしたら、それはどのようなものなのか、といった事項を検討する必要がでてくるものと思われる。
 次に、法律以外の事項がこの問題の解決にとって重要である点である。本稿では、情報発信者への民事責任追及の途を確保し、プロバイダーにはその為に必要な情報の開示のための情報の保持保存義務を認めることで被害者保護とネットワークの発展との調和を図るべきと主張してきたが、情報発信者への民事責任追及が加害者の無資力のため実効的な救済手段にならないことが十分にあり得るのもまた確かである。  このような問題への解決を考えるには、既存の法律の枠内だけでは不可能である。ネットワークを悪用する者の存在が一定程度の割合であり、ある意味でシステム上不可避な損害であるとさえいえる。このようなシステム上のリスクについては、不法行為法による損害の公平な分担だけにとどまらず、保険制度の活用によってネットワークの利用で利益を受ける利用者全体に負担させるシステムを構築した方が、より被害者の実効的な救済には資するものと思われる。
 また、インターネットの場合、法的整備よりも技術革新のスピードが速く、ある時点での問題が技術の開発によって問題とならなくなったり、逆に新たな問題が生じてくる事もあり得るため、それに常に注意を払うことも不可欠となる。
 さらに、情報発信者の自己責任原則等、利用者の意識を向上させる情報倫理教育、利用者の啓蒙も重要である。ネットワーク上で生じている問題のかなりの部分が、インターネットが非常に歴史の浅いメディアであり、社会的にコンセンサスが得られた基本的ル−ルが明確に存在しておらず、またそれを遵守する意識が成熟しているとは言えないところから来る者だからである。また個々人が不特定多数の人に向けて自由かつ容易に情報発信ができるという従来の新聞、放送等のメディアと大いに異なる特性を有しているものであるため、従来のメディア以上にインタ−ネットを利用する際の利用者のモラルの向上が不可欠である。
 このように、インターネット上での情報発信による不法行為を解決するためには、法律をその解決の手段の一つとしてとらえ、他のアプローチとの有機的な関連を持ちつつ、そのあるべき姿を模索していくことが重要だと考える。


"A study" by Aiko Mizuno
98/03/05/released
construction by Aiko Mizuno