政美は主役になれなかった女。でも「勝ち犬」の矜持はある。
「太陽の坐る場所」なら高間響子、「子どもたちは夜と遊ぶ」なら片岡紫乃。
サバサバ感は強さに通ずる。
情の濃さはむしろ「冷たい校舎の時は止まる」なら佐伯梨香か。

果歩は佐伯梨香の弱い進化形か。それじゃ片瀬充に失礼か。
辻村ワールドで一番良い女は「冷たい校舎の時は止まる」から桐野景子だと思うが、今回は? 
果歩は可哀相になるが、内にある弱さの自業自得と突き放されるのもやむなしか。
一歩間違うと次のチエミは彼女かも。

チエミは守られる女。「太陽の坐る場所」なら里見紗江子
「冷たい校舎の時は止まる」なら辻村深月。
深月と異なるのは世界が閉じていたこと? 
過保護は虐待と正反対かもしれないが、十分に不幸にした。
チエミ方程式は、元恋人(結婚相手)・大地の結婚と、一夜の関係での妊娠 + 幼馴染み・みずほの披露宴 = 共に母親になる夢。
それを否定された仲良し母親への殺意ってことか。
チエは大地との子を身籠もり、その子を産んで赤ちゃんポストに預けるまでは、逃亡を続けようと言うのか。
みずほはどのタイミングでそれを看破したのか。⇒自らの流産が決まった時に、かつての約束とチエミの最後のメールが結び付いた。
母親の死の真相はどうあれ、チエミが逃げ遂せてるのはイマイチ。
翠に会うまでも血を流しながらで、手がかり残りまくりだろう。
父親が警察に千草のキャッシュカードから金を下ろしたと言う事は、千種から暗証番号を聞き出せた事に他ならず、
それは千草が被害者と言うよりは事故の様なものであっただろうと言う展開を開陳したにせよ重用参考人には違いあるまい。
そして翠の存在、その後の救済は奇跡。
でもその翠ですら気付いたくらいだから、周りで気付いた人が皆無とは言えまい。
「子供たちは夜と遊ぶ」の狐塚兄妹の仕掛けとか、たまにビックリする軽さがあるんだよね。
翠と逃げ隠れて暮らした日々は妊婦のままなのか? 
って事には答えがあった。そりゃそうか。
タイトルはの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」は何を示すんだろうって、ずっと考えていたけど暗証番号か。
やっぱり発想は同じだったと。母娘の哀しい一致。

みずほと母親の関係。
虐待と意識しての責め苦。それを直接詫びられてない怒りと喪失感。
母親への自爆テロとして啓太と結婚し、責任のがれをするつもりだったが、啓太が狐塚孝太並みに人が好くテロは不発。
母親は厳しいんだか、コレクターとしての甘い一面が本性なのか。それともみずほからの返事を読んだ後に転向したのか。
みずほはなぜチエミを探したのか。⇒チエミの中に自分を重ねたから。友達だから。
自分が産めなかった、好きな相手の子を産ますため。・・・ねぇ、ふぅん。
果歩には開き直って冷ややかに宣言した、あのキャラとの違和感。果歩は一段低いのか。チエミは幼馴染みだから?
亜理紗のあの状況下での奢りは、読者視点ではむしろ理解できる。
大地からも指摘された様に、みずほも表に現さないまでも自分は違うと言う矜持・自覚を持った側の人間なはず。
それでも、みずほがそんな亜理紗の意見に抗ってチエを擁護するのは女心なのか。
これは女性読書には共感できるポイントなんだろうか?

梁川みずほ(30) 旧姓:神宮寺。進学校S学院から東京のG大学へ。フリーのライター。23歳で一度甲府へ帰郷。28歳で啓太と結婚するため再度上京。
望月チエミ(30) 公立校から短大卒。サガラ設計に縁故採用で期間契約社員として働く。25歳から27歳の2年間大地と付き合ったが破局。 
神宮寺 みずほの5歳年上の兄。東京の理工系の大学から院に進みマツバ電機に就職。啓太は会社の後輩。一人息子の夏喜がいる。
梁川啓太 ( ) 未婚の兄がいる。
古橋由起子(30) 2年前に結婚し1児の母。小・中とみずほと同じ。チエミとは高校も同じで手芸部仲間。
北原果歩 (30) 6年も不誠実な男と付き合っている。過去に中絶暦あり。 
柿島大地 みずほの大学のサークル仲間。ヒカワ飲料の営業マン。一時期山梨支社に勤務した。
添田紀美子 チエミの小学校時代の恩師。
飯島政美 (30) 旧姓:永井。専務夫人で1児の母。
及川亜理紗(27) S学院、K大卒でチエミと同じサガラ設計に勤務している正社員。亜理紗が新入社員の時、チエミは入社6年目の先輩。
寺脇ゆうり(30) 柿島大地の妻。
山田翠  (21) 教育学部3年生。引き篭りがちでバイトばかりの生活を送る。

22年前(6)小学校1年生の時、公園で苛められたチエミの仕返しでみずほが上級生に殴りかかる。
9年前(19)成人式の前日に母親の懺悔を目にする。
7年前(22)母のケガできっかけでみずほが一時帰郷。
3年前(27)夏に啓太と出会う。11月に政美の結婚式。
2年前(28)年明け早々、チエミと大地の破局を知らせるメール。
2年前春5月頃 はみずほが啓太と婚約し再度上京。
2年前6月 チエミからメールの嵐。大地の結婚を察知したチエミが先回りして、みずほが大地と連絡を取り合って大地の結婚の事実を知っているのかを
     確認し、みずほが知らない事を確かめた上で自分の探りそのものを無かった事にしようとした。
2年前9月 銀座でみずほと大地がバッタリ出会う。大地は結婚していた。
去年3月 チエミが手芸教室に顔を出すようになる。
去年秋頃 政美が最後にチエミに会った時期。
1月 亜理紗とチエミの口論。「チエミの限界を決めたのは親の責任」。
3月3日(29)啓太とみずほの結婚式。チエミは手芸お祝いカードをプレゼントする。
3月17日(30)みずほの誕生日。
3月25日 チエミは大地と関係を持ち、妊娠する。
4月初旬 チエミから最後のメール。「来年の3月までに母になれれば同じ年の子を持つ母になれるよ」と言う真意だが、
     あの文面はミスリードとしては中途半端。時を同じくしてチエミが亜理紗を待伏せして敵意を表明。
4月29日 チエミと母・千草が妊娠を巡って揉める。その後、チエミは添田の下を訪れ、添田の実家の鍵を借りる。
     それから妊娠検査薬を使うが、千草と揉めた時のダメージか、もともと生理が遅れていただけなのか、妊娠の印は出ず。
     富山県高岡市まではどうにか辿り着いたチエミは、翠と出会い共同生活が始まる。
4月30日 添田は息子夫婦と警察へ。
8月 チエミと翠は軽トラで高岡育愛病院へ。
8月7日 チエミの31歳の誕生日。翠に髪を切ってもらう。
9月 みずほの妊娠発覚と同時にまもなく流産。チエミの最後のメールの真意に気付く。
10月 翠がバイト先の店長にデートに誘われる。
10月3日 みずほと古橋。
10月4日 みずほと果歩。
10月5日 みずほと添田先生。この時みずほはチエミの妊娠を確認しようとした。
10月9日 みずほと政美。後から果歩。
10月10日 一旦帰宅。政美からTELで亜理紗を紹介される。富山の梁川家へ。
10月11日 みずほと高岡育愛病院・瀬尾先生、設楽院長。チエミが大地の子を預けに来るであろう事を相談。大地とのTELで面会を取り付ける。
10月13日 啓太も富山に合流。
10月18日 みずほと大地。
10月30日 みずほと果歩A。その前に添田先生にTELするが不在(富山の実家にチエミの痕跡を確認しに行っている)。
     果歩がまだ不誠実な男と付き合ってるのを知り、解消を勧めるが受け容れられずに見捨てる。
10月31日 みずほと亜理紗。その前に瀬尾先生からと思われる不在着信あり。
11月1日 みずほと古橋A。赤ちゃんポスト閉鎖のニュース。設楽院長とのTEL。古橋から添田先生の実家が富山だと知らされる。
     みずほと添田先生A。みずほは添田先生とチエミの妊娠と言う逃避行の目的を共有した上で、添田先生の実家にも姿を現さず失踪した事を嘆き、
     警察に頼るしかないと言う展開に。瀬尾先生から折返しのTEL。夢の中でチエミが母親のキャッシュカードの暗証番号を知っていた事の
     不自然さに気付く。
11月2日 みずほと母親の偶然の遭遇。
11月 瀬尾先生がガソリンスタンドでチエミを目撃。瀬尾先生はみずほに連絡を入れたものと思われる。
12月25日? デート帰りの翠と店長に遭遇したチエミ。店長のそぶりから自身の正体がバレたと思い夜半に出て行こうとするが、翠に気付かれる。
12月26日 添田の実家にでも移ろうかと逃避行を再開しようとしたチエミの元にみずほが現れる。 


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