「クローズド・ノート」や「火の粉」では女性心理を描くのが上手い作家。
そんな印象を復習してから読み始めた。
映画版も見たことはあったはずなんだが「破線のマリス」と混同している部分もあった。
04年の作品と言うと、もう7年も前になるのだけど
最近ありがちな犯罪報道のメディアの在り方、被害者家族の歯痒さ、
警察機構の官僚・現場の2重らせんの上下関係などなど、いろいろ重厚な物語だった。
物語序盤に描かれる巻島に影を落とした6年前の遺恨。
それは後味悪い形で、物語の最後のひと山を盛り上げる。
有賀の死によって事件は迷宮入りしてしまい、被害者の怨恨は歪な形となって過ちへと向かう。
巻島は犯人を捕まえられなかった無念、健司君を死なせてしまった悔悟を
麻美に語った事で事件にようやくケリをつけた事になるのか。弱さを吐き出せたという事か。
夕起也の取調べには「津田長をつけてやってくれ」と言うセリフから想像する展開と
6年前の別の被害者遺族からのもたらされた感想が、物語をただ重いものだけでは無くしている。
この辺りのバランスの取り方は優れているなと思った。ただ暗いのは哀しいから。
で、植草と杉村キャスターの大人の恋の行方はどうなったんだろう。
人気キャスターには、目論み敗れた植草に落ちて欲しくないけどね。
小川かつお君は、「プリンセス・トヨトミ」のミラクル鳥居みたい。
刑事らしからぬ彼のその後の活躍…あるのかな?
残念だったのは、炙り出されたバッドマン当人の描かれ方がほとんど無かった事。
それなりの悪役として描かれても良かったと思うのだが。もっとも、劇場型犯罪には生身の犯人像なんて必要ないと言う事か。