伊坂作品はどれも面白い。難解で、全てが明かされる訳ではないけれど、テンポも良ければ、キャラクターも味がある。
<あのバス>に乗せられて、酷い未来が待っている星野一彦。
身辺整理のために5人の彼女にお別れを告げに行く。
なんてハナシなんだろうと思うけど、1話1話が面白い。
私が一番気に入ったのは4話目のカバン屋の店員ね。
星野クンみたいに生きたいとは思わないけれど、爪の垢でも煎じて飲まにゃならんか。
考えてないだけで、あれだけナチュラルに5人の彼女と並行して付き合えるなら、それも良いじゃないか。
考えと言うか、覚悟の足りなさで言えば、私自身も相当なものだと自認しているが。
繭美の所属している組織や、<あのバス>について、ほとんど明かされぬまま
ラストシーンも10回目のキックで終わる。その後は読者にお任せと言う訳だ。
星野クンがもしも<あのバス>から逃れる事ができたとして、5人のうちの誰かの元に帰るかと言うと
そうはならないんだろうな。別に繭美との間に未来があるとも思えない。
やはり物語のラストシーンとしては、あそこしかありえないと言う訳だ。
恩田先生も、きっと同じように全てを書かない事を標榜しているのだろうけど
終わらせ方と言う点では、たまに破綻してしまうところが珠にキズ。
まぁ、伊坂作品の中にも、「オーデュボンの祈り」の様に、理解を諦めたくなる作品もある訳で。
全体的な世界観に浸れれば、それで良いのだ。
ホンワカした気分になれれば、それで良いのだ。
■再読して
細かな点は忘れていたので、久しぶりに振り返りたくなり正月に再読。
5番目の女優とのパンの話は、辻村深月にありそうな(赤羽環とチヨダコーキみたいな)涙もののお話。
ラストも何となく覚えていて、繭美が連れ去られるけど、暴れるのは分かっていた。
バスに乗り込み、椅子に座った瞬間の恐怖などは改めて鳥肌もの。
子育ても<あのバス>で脅そうか。