ブラック・ベルベット

恩田陸・双葉文庫

神崎恵弥シリーズ第三弾。という帯を見た瞬間、正直言って少しガッカリした。
と言うのも、神崎恵弥シリーズである「MAZE」「クレオパトラの夢」はいずれも私の期待とは毛色が異なっていたから。
いずれ、この恩田陸ベクトル違い問題は、私の中で累積していくことになるのだが、とにかくタイトルから期待が膨らむほど
着地点は芳しからず、これが読む前の想像。

「MAZE」「クレオパトラの夢」と、いざ3冊並べてみるとある事に気づく。
背表紙の通し番号。双葉書店では「お 27-01」「お 27-02」ときて本書が「お 27-05」と飛んでいる。
恩田先生、双葉書店からの文庫化が他にもあっただろうか?
神崎恵弥シリーズは3作目と帯に書いているんだから、他に何かある?
正解は、どうやら「MAZE」「クレオパトラの夢」の2冊は新装版が出ているので、それが通し番号3、4なんだろう。
ちょっとこれまたガッカリ。

で、本書。時系列で惑わせて、依頼人が事故に遭うというモヤモヤ感。主人公は旅先で殺人事件の現場を目撃することになる。
舞台装置は整った。さぁ、このモヤモヤをどう解きほぐそうか。
となってきた時に、トルコを舞台にしたと思われるT共和国をあちこち引っ張り回される珍道中が、今一つ深まらないのね。
どこにオチがあるんだろう。いろいろ登場人物は増えてくるけど、ミステリの鉄則で中盤以降の登場人物は真犯人たり得まい。
エディやレミントンも愛すべきキャラかもしれないけどジョーカーではない。
長谷川美津子や知念刑事も然り。ウィザード・コーポレーションという恵弥の勤め先まで明るみに出た。ここまで広げてしまい蛇足感しかない。

あとがきにあるように、ラスト数行の邂逅がお洒落な演出かもしれないけど、
その当の本人のアキコ・スタンバーグ博士の告発そのものは、本書の物語とは関係ないと言うのでは
なんか肩透かし。多田の事故は只の偶然なのか(これは洒落じゃなくてね)、これも分からない。
せいぜい時枝満が「MAZE」からのカメオ出演で、アンタレスだった!と言う事がストンなのかもしれないけど・・・

やっぱりオープンワールドよりも、クローズドミステリで人間の中身を描いた方が私の好みみたい。
神崎恵弥が凄腕ウイルスハンターってのも、そんな活躍しましたっけか?
この業界の中では伝説の存在、みたいな感じになってるけど
そこもキャラ付けが弱いから、すべて中途半端に感じてしまうのだろうな。
投げっぱなしでこそ無いが、残念な1冊。

(18/08/16)


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