これは重たい、ブラックホールのような1冊だったな。
入りはやや迂遠な感じで、ページを繰る手が緩慢だったけど途中からグイグイ来た。
墜ちていく底なし感が怖い。
横領行員の梨花の周りの、3人の知人もなかなかに破綻している。
彼らを差し挟む必要性や、技巧性はよく分からないけど、この濃密さや陰鬱さを否応なく増している。
中條亜紀も、山田和貴も、借金と離婚で家庭は破綻。
その底流には過去の裕福さを引きずり、金でしばりつける歪んだ愛情が潜んでいる。
対照的に金から一線を画そうとして、ぎくしゃくしている岡崎木綿子がいる。
かつて梨花の正義感に惹かれていた彼女は、母となり娘のちかげをどう育てていくのだろう。
お金は大事。金で買える幸せもあるだろう。でもお金は使えば必ず減る。
梨花の過ちの一つとして、横領した金額を返済しようとして積み立てている事実と、
完済できることがイコールで釣り合っていない点が挙げられる。
それでも返済のための積立という行為そのものが、満足感となってしまい返せるはずのない借金が膨らんでいく。
逃げ続ける事も難しく、いっそ露見して欲しいとの思いとのバランスの末、あとがきにもある様に
遂に、或る場所で、或る一線を越える事になる。
光太も被害者面しててはいかんよね。
自らが溺れた罠。強制された生活では無かった訳だし、ぬるま湯から抜けようと思えばいくらでもできたはず。
人は一度手に入れた安寧から脱する事は難しいと言う事だ。最初の一歩が自ら踏み出した足なら尚更。
育った環境、出自により、人それぞれが持つ世界観は異なり
家族を育むと言う事は、その世界観を持ち寄って新たな基準を作る事なんだとすると
やはり簡単な事ではないのだろう。金でつなぎとめるだけの愛情では、金の切れ目が縁の切れ目になってしまう。
物語のラストで中條亜紀が娘の沙織に示した愛情は伝わっただろうか。
これは映画も見てみたいね。まだギリギリやってるな。