さがしもの

角田光代・新潮文庫

あとがきを読んで、なるほど。テーマは「本」なのね。
いや、そのくらいは気付きはしたものの、作家が本について書くというのは
恩田陸でも興味深い経験をしているが故に、今回も似たような印象も受けた。
人も本も、自分の好みに巡り合える奇跡に、もっと感謝すべきなのかもしれない。
お気に入りの一冊を知る人は、その僥倖に感謝しつつも、ある日それ以上の巡り合いを果たす可能性は否定できない。
でも、良いのだ。人と違い本はお気に入りが増えても困らないので。その通り。

以下は、それぞれの短編についてのショートコメント。

○旅する本
「東京奇譚集」みたいな村上春樹テイストを感じた。
「旅するジーンズと恋する16歳」とか言う単館映画も見たな。
「恋は短し歩けよ乙女」にもこんな話あったよね。

○だれか
完全に妄想テイスト。
旅先で出会った1冊の背景をここまで書く辺り、恩田陸が本について書くのと同じ様なノリか。
作家が本に対して抱く執念って、こんな感じなんだろうな。

○手紙
これも妄想テイスト。
他人の日記や手紙って、第三者として覗き見るのは愉悦の最たるもの。
されど、己の過去の日記や手紙に向き合うのは、痛みも伴い失笑を禁じ得ない。

○彼と私の本棚
読んでる本で人間性が分かるって話か。
確かに何に興味を示し、何を良しとするかは人それぞれで、
そんな人々がくっついたり、別れたりするんだもんな。

○不幸の種
本も人生も、人それぞれ。
主観の数だけストーリーがある。
次第に分かってきた、角田光代テイスト。
痛みは薄いけど、大崎善生みたいでもある。

○引き出しの奥
「旅する本」とも似てる。
違うのは主人公が、いつの日か出会うであろう「伝説の本」に向き合うために
サカイテツヤを通じて積極的に生まれ変わりそうな予兆がある点かな。

○ミツザワ書店
良いハナシ。
本の利点って世界の扉であると同時に、想像力を育む点も大きいだろうな。
これは漫画と大きく異なる点だ。

○さがしもの
そう、そして想像力が恐怖を肥大化させる。
案ずるより産むが易し。
下手な考え休むに似たり。
ただし、さがしものに巡り合えると言う僥倖は思っている以上に価値があるのだと思う。
数ある書物の中から、お気に入りの一冊に巡り合える奇跡もそういう事。

○初バレンタイン
交際2ヶ月で187,000円の指輪をカードで買うかどうかはともかく。
プレゼントで本を贈るのは難しい。
それは、恩田陸も「ネバーランド」の中で語ってた気がする。
ん? あれは贈られた側の感想だったか。

(09/07/20)


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