ふちなしのかがみ

辻村深月・角川書店

恩田陸も道尾秀介もそうなんだけど、短編はちょっと勿体無い。
世界に独特の魔法をかける時間が足らないのだろう。
着眼点やインパクト勝負なのかもしれないけど、
読み手の力量不足で消化不良な点もある。

○踊り場の花子
これは不条理ホラーと言う事で良いのかな。
校舎が舞台だと否が応でも「冷たい校舎の時は止まる」を思い出す。
チサ子が真綿で首を絞めるような展開は「リング」「らせん」の様なテイスト。


○ブランコをこぐ足
どうしても辻村深月本人のトラウマなんじゃないかと思われるイジメ問題。
注目を惹こうとみのりの行動はエスカレートしたのか、それは誰にも分からない。


○おとうさん、したいがあるよ
これもよく分からない。
ブラックジョークの類なのか。ナンセンスホラーなのか。
でも非日常の世界で描かれる家族愛が暖かいのは不思議。
最後の最後で「私はこの家が大好きだった」と過去形になるってことは、
これもつつじの最期の記憶なのか。


○ふちなしのかがみ
これが一番辻村深月らしさが出てる。
マイコやサキの友達のカナは、実は…
この悲劇の端緒は、よく考えたら結局は優一郎がだらしないからいけないんだな。
自業自得なんだ。優香にとっては悲劇だったけど。
↓にネタバレの登場人物整理。


高幡冬也 高幡優一郎の隠し子。
香奈子 高幡優一郎の別居中の妻。
    自分たち夫婦の子に音楽的な才能が無いのは、自分が音楽の才能が無いためだと思い込み、音楽の才に長けた冬也に倒錯した愛情を抱く。
    モスコミュールを飲んでるって事は、最初から高幡香奈子なんだな。カルティエも持ってる訳だ。男たちが香奈子を誘わないのも合点。
マイコ 年齢や性別もお構いなしにタメ口で香奈子と知り合いになる。そりゃカナの門限には驚くよね。
サキ 飲んでるのはちゃんとアイスティー。小宮麻里と冬也は中学生の頃から付き合ってなくたって、カナの入る余地は無いけどね。
高幡優一郎 音楽家。優香を引き取って育てている。
小宮麻里 冬也の恋人。
高幡優香 高幡優一郎と香奈子の間にできた娘。冬也のマンションの近くに居たところを、混乱した香奈子によって絞殺され、冬也の家の前に遺される。


○八月の天変地異
セミの恩返し、では無かった。
ちょっと切ない良いハナシ。
こう来ると野暮な事は言いっこ無しで素直に温かい気持ちを受け止めれば良いよね。

(10/01/17)


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