鼓笛隊の襲来

三崎亜記・光文社

関内への往復の電車の中で読了。

『鼓笛隊の襲来』この作者は音に拘りがあるのかね。今読んでる「失われた町」でも音をもって音を制すみたいなシーンあるし。
テーマは継承される家族愛、ってのは美しくまとめ過ぎか。

『彼女の痕跡展』も「失われた町」に通じる。村上春樹的な喪失感。

『覆面社員』はまたしても裏・阿刀田高的なブラックテイスト。果たして覆面を被っているのか否か。

『象さんすべり台のある街』の還るべき場所は、やっぱり「失われた町」で言う風待ち亭に繋がる。立続けに3作読むとどれがどれやら。
故郷のイメージか。私にとっては懐かしく振り返るべき故郷はどこになるのだろう。

『突起型選択装置』これまた設定を変えた特別汚染対象者って事だよね。
こうして読むと、本作は「失われた町」で書き足らなかったコンセプト集って感がある。
p117で初老の刑事がつぶやく、“負の要素は消えてなくなるわけではなく、見えない部分に押し込められてるだけ”ってセリフに重く鈍く共感。

『「欠陥」住宅』では四次元空間に取り込まれてしまう。これはこれで喪失がテーマなんだろうな。
生きている喪失、生と並存している喪失、そんな感じ。だからいつ自分自身にもそれが訪れるか、誰も分からない。

『遠距離・恋愛』これってハッピーエンドの様にも思えるけど、沙紀ちゃんを考えると恐ろしくなる。
10歳の童女である必要性から彼女が選ばれたんだろうけど、その責務をこれからずっと彼女一人が負うのかね。

『校庭』は「世にも奇妙な物語」で採用されそうなネタ。

『同じ夜空を見上げて』は喪失を受け容れる物語。「バスジャック」の中の『送りの夏』と被る。
突然多くの人間が消えてしまうのは「失われた町」と同じパターンでもある。こう言うの好きなんだろうね、この作者。

(08/08/16)


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