前作の「箱庭旅団」に続く連作短編集。
恩田陸テイストに通じる不条理ホラーは健在。
私が好きなのは『運命の女、のような。』や、『時計のまち』。
米澤穂信の「折れた竜骨」のような『傷心の竜のための無伴奏バイオリンソナタ』も良かった。
長いタイトルそのものがそそられる。
以下、ややネタバレも含む短観。
『再び旅立つ友へ』
辻村深月の「サクラ咲く」など、類似のテーマは枚挙にいとまがないだろう。
連作短編集のトップバッターとしては掴みはOK。
『誰もゾウにはかなわない』
恩田陸なら『かたつむり注意報』か。
童謡のぞうさんには父さんが出てこない事は、友人も憤慨していた。
“地球の見た夢”はカッコ良かったんだけど、これはいったい何のハナシなの?
『ヴォッコ3710』
言わずと知れた星新一「ボッコちゃん」へのオマージュ。
人は人と関わらずに生きていけるものじゃない。おっしゃる通り、相対主義バンザイ。
近未来が舞台なので、未来の用具を新語で表現する苦労などが偲ばれる。
偏屈なジェフじいさんのイメージは、浦澤直樹の「プルートゥ」のポール・ダンカン。
『市長選怪文書』
これなんて、恩田チックかもしれない。
誰に向けての手紙なんだ?
壁の中での妄想、というスタイルなんだろうけど。
『運命の女、のような。』
恋愛感情を超える運命の女ねぇ。近くにいて気にならない人くらいがちょうど良いのかも。
『黄昏の旗』
オカルトホラーな、軽い恩田テイスト。
オチも前作からの伏線もあり、悪くない。
あちらの世界にひきずり込まれないようにご注意を。
『人間ボート、あるいは水平移動の夜』
何なの、この話。笑えば良いのか。
ナンセンスホラー? ブラックジョーク?
『未来人のビストロ』
不条理オチではなく、良いハナシだ。有言実行。
『ひとりぼっちのファニカ』
これは完全に宇宙人のオカルト話。
恩田陸なら「月の裏側」「MAZE」あたりの部類か。
連作短編集の途中のお口直しと考えれば、まぁ、これもありかと。
『僕のおじさんはヒーロー』
これはラストは「Q&A」みたいにも思えるんだけど、どちらかと言うと山本弘の「と学会」系か。
この著者、ウルトラマンの脚本も書いてるみたいだし、そっち系の素養があるんだね。
『時計のまち』
白馬を伴ったトラベラーは、朱川ワールドの王道。
話そのものはあっさり味だけど、この話キライじゃないよ。
『傷心の竜のための無伴奏バイオリンソナタ』
ファンタジーを書かせてもなかなか。
ジークは黒竜を討ち、命鱗を手に入れたのか否かは人知れず。
ただしバイオリンを手に入れるのに、バスタードソードを手放してしまってるんだよね。
『三十年前の夏休み』
これもトラベラー。今の自分のエポックメイキング的な出来事の上になりたっていると想起するのは
『再び旅立つ友へ』とほぼ一緒。
この著者の型なんだろうね。
『アタシたちの素適な家』
最後の1行が、恩田陸なら『観光旅行』みたいな落差のストン。
『カムパネルラの水筒』
「銀河鉄道の夜」をモチーフにしており、ストーリーの内容には浸れなかったのだけど
恩田陸の『三月は深き紅の淵を』の様に、朱川ワールドでは『唯一無二の絶対真理』と言う
一冊の本がカギを握る。そんな設定だけで大好き。