カモフラージュ

松井玲奈・集英社

元SKE松井玲奈のデビュー作。文壇界からの評価も高かったように思う。
いわゆるアイドル作品枠ではなく、普通に小説として評価を受けるだけの価値はあると。
もっともゴーストライターではないと言う保証は無いが。
秋元康が歌詞に書いた市場受けする恋愛感情を歌ってきたのだもの、恋愛ものならお手の物かも。
そう思ってたらホラーも書くとは驚き。まぁ、恋愛もホラーみたいなものか。

電車オタクだったり、アニメ・ゲームのサブカルだったり、ドラマや舞台などの芸能活動ももちろんのこと
そのマルチな活躍ぶりは48グループ卒業生随一ではないかと思う。(2番目を篠田麻里子だと思うのは贔屓目なんだろうな)

■ハンドメイド
冒頭の作品は三角関係。彼女がいる男性を好きになってしまう切なさ。
これが更に進んで不倫までいくと、妻子ある男性と、女性との間の不義はどちらがより重い罪なのか。
“彼女の彼”。谷村有美や渡辺美里の歌詞の中でも、そういうシチュエーションは多くある。
手作りのお弁当をいただけるのを当たり前だと思うなよ、世の男子。
三角関係の場合、振られてしまった側の同姓同士が仲良くなるというのは意外に多いパターンだと思う。

■ジャム
そして2作目がホラー。不条理モノに漂う、湿度の低い狂気。
これも読んでて改めて松井玲奈の文章なのかと思うと驚き。
こういう着想ってどこから得られるのだろう。

■いとうちゃん
メイド喫茶。
需要と供給はある意味、アイドル経験がもっとも活きたテーマではないか。
SKEのリーダー格ではあったが、メディアへの取り上げられ方はW松井としてニコイチ。
下手すれば運営推しの松井珠理奈の方がメディア登用は多かったかもしれない。
消費される人気って残酷。神7に食い入ることは無かったけど、選抜総選挙を上位で戦い抜いたのは本当にお疲れさまでした。

■完熟
夫婦間にも秘密はあるさ。知らぬが仏。私も且つてのSPEED好きはバレてないと思っている。
これなんかも文章が老成しているというか、成熟してるよね。
とても独身女性の内から滲み出た世界観とは思えない。
自分の何処を必要とされているのか、は安部公房の「砂の女」に通じそうなテーマ。

■リアルタイム・インテンション
当世の行き過ぎたネット社会への警鐘というか皮肉と言うか。
ネットリテラシーは取り返しが効かない恐ろしさがある。
情報の非対称性から、有名人ほどリスクの方が大きいだろうから、著者本人がよっぽど危なかったりして。
実はさ、私も著者のツイッターをフォローしてます。

■拭っても、拭っても
小説すばるも買ったよ。デビュー作。
潔癖症マザコン男に振られてしまい絆創膏がトラウマになってしまった主人公。
職場の可愛い後輩男子なんて、今まさに篠田麻里子も出演してる「ミストレス」そのまんまじゃないか。
普遍的なモチーフなんだろうな。
最後のオチに向けての収まりが、やや違和感あるのだけれどデビュー作でここまでのまとまりがあれば及第点だろう。

乃木坂46の高山一実も小説書いてたし、アイドルが小説を書くなんてのは珍しくも無いことではある。
芸人枠まで広げれば、又吉直樹の「花火」とか枚挙に暇は無い訳で。
だからこそ、そんな枠では無くて文筆家としてのみの地歩も上げていけると良いよね。
引き続きの芸能活動を応援してます。

(19/06/02)


茶色い本棚(国内作家)へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る