恐らくわざとなんだろうけど、序盤で背景説明を省いて様々な人物の目線で交わされる会話に面食らう。
これがテンポ感とか、躍動感なのか。私にはもったいぶってる様にしか思えず、
少し作者の意図に反発を覚えていたのだけれど、次第にキャラクターの背景が見えてくる。
謎は謎のまま残されるんだけど、少しずつ点と点が線につながっていく。
「ハルビン・カフェ」も公安警察の裏側を描いた小説だったから、何と無く重なる部分を感じる。
大沢在昌は私の中では「×」なのだが、こう言うハードボイルドならば良いか。
裏切り。義憤。復讐。正義。
なるほど、これらはどちらの側に身を置くかによって変わる。
田中芳樹はそれを物語りの中に並立させて、善悪二元論とも違う価値観の戦いを構築した。
この物語の中では一貫して正義は有働・秋葉・能見のラインにある。秋葉、能見は犯罪者であると言うのに。
能見が犯罪者と知って去っていく結子、そうと知っても救済を期待した梢や充。
帰ってきた能見が敵か味方か図りかねて煩悶する東野。
「敵」ながら、引寄せられる南城や桜田。そこに見たのは嫉妬か、憧憬か。
解説にも書いてあるように、ハードボイルド、ピカレスクの一面を持ちながら、家族小説の面も持つ1冊。
新田家はどこか「家族狩り」の馬見原を思い出させた。秋葉が能見に賭けた様に、能見が賭けた充のその後はどうなっただろう。
梢は真希の様になるのか、我が家、我が子を守る事ができるのか。
実際の公安警察って何やってるんだろうね。
普通に暮らしていると、警察(公安に限らず)と接点を持たずに人生終える人の方が多いんじゃないかな。
残念ながら私は一時不停止でパトカーに追走されて、違反切符切られる際にパトカーの後部座席に乗せられた事ありますが。
強大な権力が市井の平和ではなく、一握りの人間の利権を守る為に使われていないと、誰が言えるだろう。