小児救急

鈴木敦秋・講談社文庫

問題提起は大切だ。しかし、提言はもっと大切。じゃあ、どうすれば良いだろう。
新・自由主義のもと推し進められた規制緩和で崩壊したという医療現場。
市場経済に委ねてはいけない聖域だったのか。
ただし国家財政そのものが破綻しているこの国にあって、正しい事とは何なのか。

一方で間違いなく、この国には高度医療は在る。
採算さえ問わなければ、病院経営さえ回れば、技術は在るのではないか。
過酷な勤務実態、しわ寄せを受ける医師、担い手不足、この負のスパイラルを断ち切る一手が診療報酬の改定なのか。
市場経済に限界がある時、政府・行政が行わなくてはならないことは、やはり何かあるだろう。

審美歯科のように、持てる者が出すもの出して対価を得るのも誤りではあるまい。
奇しくも本作でも語られる、夜間救急の費用をいっそ高くするのも一つの手なのかもしれない。
軽症患者が救急車を使い夜間ベッドを占領する裏で、本当に高度な救命を必要とする患者を救えない悲劇。
ただし総論賛成・各論反対で、目の前で自分の子供が苦しんでいれば安心を求めて夜間診療に駆けつけてしまうものかもね。

たまたまこうして、光の当たった問題がある。その裏で光の当たらない多数の問題があるだろう。
それでも光が当たった事で考える契機を与えられた。
文庫版あとがきでは2つの成功例が語られているが、これとて永続的なモノとは限らない。
それにしたって、何も始まらないよりずっと良い。
こうして世の中を動かしている市井の人はすごいなと思う。
自分もそんな意味のある生き方をしているだろうか。非常に考えさせられる一冊であった。

(13/01/10)


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