チョコレートコスモス

恩田陸・角川文庫

きた!長編文庫化。この厚さが嬉しいじゃない。読み応えありそうで。
文庫本で700円超えって、なかなかないぞ。
ハードカバーは毎日新聞社からの刊行だから、文庫化はいったいどこから、いつになるのかと思ってたけど。
ありがとう、角川文庫。

クリエイター同士ということで、恩田陸は舞台にもいろんなこだわりをもってるんだろう。
舞台でストレートに思い出すのは「中庭の出来事」や、まさに戯曲の「猫と針」だけど、
「蛇行する川のほとり」もラストに屋外舞台みたいなところの一幕があったような気がする。
「六番目の小夜子」もラストで一人ひとり持ち回りのセリフで寸劇みたいな事やってたね。
オーディションということなら「ドミノ」もある。
他の作家だと、石田衣良「下北サンデーズ」や、辻村深月「スロウハイツの神様」なんかも頭をよぎる。

「チョコレートコスモス」で語られるのは、かなり狭いフィールド。
響子らの地方公演とかで、一生懸命に世界に横の広がりを見せようとしているのだが登場人物も少ない。
それだけに舞台の広がりが大きく感じるのかもしれない。まさに時空を超えて。
その舞台の可能性はもちろんのことだが、更にはその天才少女・佐々木飛鳥を文字だけで
ここまで読ませてしまうのは、さすが恩田陸。
やはり人物描写や内面の葛藤を描かせると上手いなと思う。
逆に「MAZE」や「上と外」などの建造物の描写はイマイチに感じるんだけどね。

謎の天才少女・佐々木が、実は憂理なら良いのにと思ったけど、
残念ながら理瀬シリーズとの関連はなかったか。毎日・角川系だからね。
物語を俯瞰するような8章の書き出しは悪くないと思う。
文庫版あとがきによれば、佐々木飛鳥は「ダンデライオン」「チェリーブロッサム」とシリーズ続編が予定されている模様。
いったいいつになるかは分からないが楽しみだ。
クリエイターには、上手さはもとより、オリジナリティこそが肝要というのが恩田先生からの示唆なのかな。
「らしさ」が一番だと。佐々木飛鳥の飛躍や如何に。

それにしても舞台。
私はどうにも苦手。「CATS」や「レ・ミゼラブル」などベタな演目でも、客席で睡魔と闘うことになり
一緒に観劇した人からほとほと呆れられる始末。
むしろテレビで舞台観劇していたほうが「マクベス」や、小林高鹿の出ていたシュールな舞台も最後まで見られた。
まったくもってライブ感を満喫できていないこと甚だしい。まことに申し訳ありません。

これでミステリの要素が少しでも混じっていると、個人的にはもっと楽しかったんだが。
「木曜組曲」との差はその辺かな。

35歳、最後の一冊を恩田陸の長編で締められたのは個人的に満足なり。

(11/07/17)


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