さよならドビュッシー

中山七里・宝島社

09年の「このミス」大賞。ずっと気になっていたが、三田図書館から借りてきてようやく読了。
なるほど、このオチにはたまげた。それで、さよならドビュッシーなんだね。

序盤で玲子・ルシア・玄太郎爺さまと一挙に退場。田中芳樹か、福井晴敏かってくらいの虐殺だ。
離れの火事も階段の滑り止めへの細工も、普通に考えれば研三が第一容疑者って事になるだろう。
動機は遺産相続の妬み。
でもミステリというならば、みち子さんも怪しいか。ただし動機が見当たらない。

そして母親までも退場。後から読み返すとちゃんと伏線が張ってあるのは素晴らしい。
事件なのか事故なのか。榊間刑事の事情聴取でみち子さんの爺さまに対する暗い一面も垣間見える。
おお、容疑者度がアップしたな。

魔法使い・岬。期間限定の逗留のはずが、名探偵を務めて物語を終幕へ導く。
ホウソウ=放送ではなく法曹は、直感で分かった。榊間刑事のリアクションで裏付けも取れた。
ちなみに遥が「魔法使いの弟子」ってのはデュカスへのオマージュもあるのか?
リハビリ以外にも厄除け・機能回復の呪文まで、見事なもんだ。自らも手負いの身なのにね。
私はてっきり余命僅かとか、そう言う陰を背負っているのかと思ったけどそこまで重たくは無かったか。

中山七里は音楽をやった人間なんだろうな。
文字だけで音楽の情感をたっぷり書き上げている。
が、一般の読者にそれがどこまで伝わるか。若干冗長な気もする。
現代は不寛容の時代。この辺りが実は作者の一番言いたかった事なのかな。
前回の「このミス」でも最終候補作に残ったみたいだし、
今回も「さよならドビュッシー」以外に「災厄の季節」が最終候補作に残った様だから
今後も要チェックだ。

巻末の「このミス」選評を読むと、「さよならドビュッシー」への指摘も頷ける。
確かに細かいツッコミどころはあるよね。
結局最初の火事は爺さまの不注意だったって事だよね。これが軽い。
みち子さんの洞察も、遥がそこまでする理由が稀薄なんだよね。
父親にリストラの影が迫ったとは言え窮乏に喘ぐ身ではないし、
待っていても十分な金が手に出来ただろうから1/2を独占すると言う動機には至るまい。
ま、爺さまを失って冷静な判断ができなかったとすれば情緒的なのか。

そして岬とルシアを繋ぐための強引な設定であった、爺さんが勤めてきた面接者の継承はどうなったんだろう。
もちろん物語とは直接関係無いけれど、どこかに次期面接者が出てくればご都合主義の誹りは少し薄らいだと思う。
で、岬の当初の期間限定の滞在の目的って何だったんだろう。ルシアにかかりっきりなイメージがあるが。
これまたご都合主義か?
最後にルシアにかける言葉はどうかと思ったが。ま、弁護人としてのコメントならそれもありか。
音楽の練習では1日のブランクは3日分の遅れとか言うが、収容後のリハビリは大変そうだ。

(10/10/31)


■ドラマ版を見て
うーん、ドラマだとあまり面白くならないな。
特に序盤は退屈。録画で見たけど、これリアルタイムだとザッピングで視聴率下がっただろうな。
黒島結菜は可愛いけど、なんだかそれだけのドラマ。
岬も東出じゃなくて、もっと線が細いタイプのイメージなんだよね。
残念。

(16/05/02)


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