分身

東野圭吾・集英社文庫

行き過ぎた科学への警鐘と言う観点では「ジュラシック・パーク」が印象深い1冊だった。
特に、制御できないものを取り扱う事への喚起と言う意味では、現在の原発にも直結する。
本作ではクローン技術を対象に物語が進む。

親切な仲介者ほど怪しいものはなく、下条さんと脇坂さんの立ち位置は想像できた。
特に下条さんには協力する理由が希薄だからね。

エンディングは映画向きかもしれないが、後味は決して良くない。
あの二人の邂逅は果たされたが、他の皆は炎の中ってこと?
鞠子は父親まで亡くしてこの後どうすれば良いのでしょう。
鞠子の逃走を見逃してくれたあの子はどうなったんだろう?
双葉は脇坂とも良い雰囲気だったし、東京に戻ればユタカとの淡い恋物語もありそうだけど。

事件の黒幕として途中からチラホラしていた伊原は中途半端な立ち位置だったな。
過去の整合性と、展開に巻きをいれるための舞台装置と言う訳か。
それ以外にもハンチントン舞踏病なども含めて、後付けの設定が多かったのはご都合主義が否めない。

テーマは逆説的に家族愛?
遺伝子上の繋がりがなくても、娘を助けた鞠子の母。本当の母娘愛って事か。
脇坂も養子だったし、血が繋がらなくても家族の血は濃いと。
つくられた分身そのものが悪な訳ではないとしたら、何が悪なのか。
誕生を強いた皆がいなければ存在しなかった二人の立場が何とも哀しい。
物語だから、あのシーンで終わる事ができるのだけど、あの後こそが本当の物語なのかも。

(12/08/19)


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