水底フェスタ

辻村深月・文藝春秋

やはり辻村深月のクオリティは一定の底堅さがあり、読んでてハズレはないなと思う。
そして様々な作品を通じて一貫している、都会への恨み節は相当なモノなんだろう。
これぞ辻村ワールド。

由貴美という落ち目な芸能人が、捨てたはずの郷里の片田舎に戻ってきた。
由貴美自身を巡る謎、村にまつわる謎。そして謎は主人公の身の上にも広がっていく。
残りページが少なくなるに従い、どういう結末を用意しているのか心配したけど
まぁ、こんな含みのあるラストも悪くは無いか。ちょっと消化不良ではあるが。

ただし日馬達哉にせよ、織場由貴美にせよ、人ひとりを消すのは容易な事ではないはず。
それがどれほど閉鎖的な睦ッ代村だからとて。
由貴美の母親の時だって、選挙にまつわる不正だって、いつかは外からの光に暴かれる日がくるだろう。
ただし、広海と英恵と京介の企みがそのまま成就するかどうかは・・・微妙だな。

キャラクターはよく描かれたと思う。
広海は母親と俗物だと軽んじていたが、自分の達哉に対する態度は母親そっくりだと気付くシーンは胸が痛い。
達哉の隠し持っていた知られざる告発者の一面も、その落差にストンと来たね。
無機質な謎めいた由貴美が時折のぞかせる素の表情も、キャラクターの幅を広げてより謎めいて見せてた。

社会の価値観とは何ぞや。
どっぷり染まって疑わない者。全てを知った上で抗わない者。戒めを破ろうという者。
いろんな人の思惑の上に、この世は成り立つ。 これからも辻村深月は自分たちのキャラクターを通じて、都会と田舎の格差を叫び続けるんだろうか。

今回は他作品とのリンク(カメオ出演と言うの?)は無さそうだね。

(12/05/19)


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