いのちのパレード

恩田陸・実業之日本社文庫

また短編集。そこは残念ではあるが文庫化の予感も無かった作品だけに吊り広告を見た時は小躍り。
でもやっぱり恩田陸は短編よりも長編が良いな。
ついつい過去の作品と比べながら読んでしまった。

■観光旅行
短編集の1話目として、出だし良好。
ファンタジーは長編よりこのくらいの短編が良いよ。これ以上は膨らませ様も無いだろうし。

■スペインの苔
なになになに?
「ご理解いただけたことと思う」って、いやいやいや。
分からない。これだから…

■蝶遣いと春、そして夏
やばい。ますます分からなくなってきた。
これは「禁じられた楽園」か「エンドゲーム」か「ネクロポリス」か。3、4回と読み返す。
蝶遣いは死者の鎮魂を生業とするんだね。自らの愛した人を弔った事のある者は特に有資格者だと。
夏の終わりの最終日に、今は亡き愛する者を訪れた訳だ。
墓参りの換わりにこんな儀式が定着しているアナザーワールドか。

■橋
悪くないんだけど、それが何? ってハナシだな。
英司が何しに来たのかが分からない。橋で隔てられ離れ離れになった家族、それで良かったのでは?
そして奈良の大仏は何のメタファーなのよ。
ケイコ、麻耶ちゃん、鮎子姐さん、アケミ、涼ちゃんの並びに何か意味があるのか、これも無いのか。

■蛇と虹
犬と少女とおどろおどろしさは「蛇行する川のほとり」で、ラストは「不安な童話」か。
二重構造なら「中庭の出来事」にも通じる。
いずれ二人は若い後妻を迎える父を撃つのか。
いや、しかしその後妻から生まれたのが二人なのか。

■夕飯は七時
ドラえもんみたい。不条理ネタ。常野シリーズかと思った。
胡椒のくしゃみで消えるのは何故だろう?
作家の愚痴と言うテーマは「三月は深き紅の淵を」や「木曜組曲」にもあった。

■隙間
恩田版口裂け女? 空きっ歯なのかと思ったけど、口そのものが隙間って事か。
都市伝説なら「球形の季節」がそうか。恩田版ホラー。
嫌いじゃないが、ストンが欠如。

■当籤者
誰が真実を語っている?
ホントにニセの当籤通知なのか。あの老人が奥さんを殺したい理由があったのか。だとすれば奥さんの嘘は何故。
老人が奥さんの弁明まで聞いているのは不自然。奥さんの死も不自然で、飛び退いた旦那にぶつかった拍子に転んで刺さった?
この短編集はこんなハナシばっかりなのか? 怪談かシリーズか?

■かたつむり注意報
世界観は悪くない。イサオ・オサリヴァンみたいな感じだ。
でも分からない。
結局この後この町はこの後で災厄に見舞われるのだろうか。
「月の裏側」のホラーってことか。

■あなたの善良なる教え子より
こう言う独り語りスタイルは悪くない。「Q&A」みたい。
クッションでの父殺しはカルマーンかって話だが。
この手紙は検閲に引っ掛かるから先生の元には届くまい。
ちょうどテレビ東京でやってた死刑囚ドキュメンタリーが被る。

■エンドマークまでご一緒に
なんだこのバカ話。激しく脱力。おいおい、恩田先生よ。こんなんアリ?
洋題は気が利いてるね(でも洋題は恩田陸が付けた訳じゃないみたいだ)。

■走り続けよ、ひとすじの煙となるまで
生きてる構造体みたいな話は「図書室の海」にもあった(『オデュッセイア』)。そしてあれもよく分からなかった。
永遠と思われるモノにも終わりがあるよって話? 何かのメタファーなのかな。
でかい建物への畏怖は「上と外」「MAZE」にも連なる系譜か。

■SUGOROKU
これも架空のハナシ。さすがに辟易とする。食傷気味だ。
気付いたのは、これらは三崎亜紀の世界観にも近いのではないか。
そして、やっぱりこんな架空の世界設定を嫌いでは無いって事。
アイディア勝負の短距離走もね。ただ好きなものも続くと飽きる。良い教訓だ。
米澤ワールドをあれだけ読み続ける事が出来たのは、古典部シリーズと小市民シリーズとの間に存在する差異のお陰か。
ミステリなら『AではなくBだった』と驚きと言うか、裏切りが欲しいんだが、
単にビックリではなくBに納得したいんだよね。単なる肩透かしでは興ざめ。

■いのちのパレード
そしてモノリス! か。
『走り続けよ〜』も同じテイストだったから二番煎じは否めまい。
こう言う高尚なテーマは残念ながら恩田ワールドじゃないんだよ。
ま、これは恩田版「火の鳥」。

■夜想曲
んー。これで終わり?
これも「火の鳥」エビタみたいな感じ。
ロボットに魂が宿る、そんなテーマで短編をって事か。少しSFで。

で、あとがきを読む。これは異色作シリーズだったって事か。
なるほど、異色ばかり読まされちゃぁ食傷気味にもなるわな。
解説を読むと随分持ち上げられてるので、そう言う評価もあるのかと少し見直す。
でも、やっぱり次は長編を読みたい。例えそのラストが肩透かしパターンだとしても
恩田ワールドが広がっていくその過程を楽しみたい。

(10/10/16)


黄色い本棚へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る