立て続けに芦沢央第三段。今回は新潮文庫で短編集。
恩田陸の場合、短編集より長編が望ましいのだけれど
芦沢央の短編集は小気味よい感じでサクサク読めた。勿論、どれも捻りが効いている。
●目撃者はいなかった
嘘を守ろうとして陥穽に嵌る。阿刀田高にありそうなテイスト。
放火容疑をかけられてしまったら、正直に詫びるしかないだろう。
さすがにその天秤に迷いはないと思うが。
●ありがとう、ばあば
祖母、母、娘の女だらけの確執は、「悪いものが、来ませんように」を読んでいるような感覚にもなった。
もちろん杏の無垢な狂気も怖いのだけど、凍え死ぬくらいならホテルの窓を割ってでも部屋の中に入るよね。
その醜聞を良しとせず、座してベランダで凍死しても騒ぎになる訳だし。
「私のために死んでくれなかったの」などと続きを宣う杏の姿が目に浮かび、更に恐怖は募る。
●絵の中の男
恩田陸「Q&A」のような手法。話の内容としては「不安な童話」がこんな話だったっけ。
これは物語の概要が掴み難かったが、刃物を持つ手が押していたのか引いていたのかによって
事件のあらましは正反対になる。真実は闇の中。
米澤穂信ワールドにも似ているのか。それがミステリか。
●姉のように
もうね、これはストンと騙された。もはや心地よい。
そうか、ペンネームの絵本作家というのが良いじゃない。志摩菜穂子ではなくても矛盾が無いわけで。
ミステリの仕掛けを度外視しても、ワンオペ育児に病んでいく菜穂子の様子は幼子を持つ親としては他人事には思えない。
怖いお話。
●許されようとは思いません。
これはラストが秀逸。これだけドロドロ、モヤモヤした話を並べて最後の清涼感に救われる思いがする。
古い因襲に捕らわれ、死んでから尚も縛られることを良しとしない祖母の起こした行動は・・・。
物語の終盤に土砂崩れでお寺への道が閉ざされた時、この土砂崩れは人為的なものであり
主人公(祖母の孫)は埋められてしまうのでは?とさえ怯えたけど。そこまで性根の悪い話ではなかった。
お寺の門が開いていなかったのは不思議だね。
底流は自己愛、みたいなテーマなのかな。自縄自縛というか。
なかなか難しい人の世。