インシテミル

米澤穂信・文春文庫

先に映画版を見ていたので、どうしてもその印象が強かったのだが
映画版はかなりオリジナル脚本だった訳か。
原作の方が犠牲者が少なく、後日談を語られる人間が多いね。
須和名は曲者だと言う先入観で読んでいたため、その部分についての驚きは無かった。
投獄された人物もキーになると分かっていたけど、ラストでそう言うつながりを図るとは。これ真逆だね。
物語の終盤でその2人の間で飛び交う数字なんて、映画版の数字を想起してたら全く別物だったし。
ちなみに結城は岩井先輩の年齢までは知らなかったって事か。
35歳だか41歳だか自信が無く、20代の自分とそう変わらないと思っていたとは…

主人公の立ち位置と言うか、味付けは他の作品とそう大して変わらない。
古典部シリーズのホータロー、小市民シリーズのジョーに替えて『ちょっと気だるい探偵』として結城が奮闘。
ミステリアスなヒロインとして須和名。彼女を引き立たせる役として関水。
原作ではラストまで関水の目的はピンとこない。ここは映画の方が分かり易かった。

映画の先入観があったからか、小説版の12人のキャラクターがなかなか掌握できず
その内に退場しちゃう人もいて、実は読んでて結構大変だった。
映画と重なりそうで重ならない部分もあるからさ。

作者が言う通り一度はクローズドミステリーにチャレンジ、って感じで生まれたのかな。
この辺、同じクローズドでも恩田ワールドとは全く違うのが面白い。
ある意味心理戦って事では、「木曜組曲」や「木洩れ日に泳ぐ魚」なんかとモチーフは同じなのにね。
こうもテイストが異なるのか。

作者の遊び心が表れた物語序盤に羅列される「●藤」さんシリーズ。
阿藤、伊藤、宇藤、江藤、尾藤(これはビトウだよなぁ)、加藤。
ここまできたら、紀藤、工藤、毛藤、古藤、佐藤、進藤、須藤、仙藤、曾藤、etc.
もう少し続けて欲しかったけどね。

ここからは、昨年に見た映画版『インシテミル』の鑑賞直後の感想。
細かなツッコミどころは多数。
“ガード”のテクノロジーは荒唐無稽。
石原さとみが、さっさと藤原竜也を撃たないのもご愛嬌。
料理で使う包丁などが凶器にならないように、素材はカットしてあると言う説明的セリフありがとう。
どうせなら入替えられた火かき棒にも役割があれば良かったのに。
ディクスン・カーも、まだらの紐のホームズも、何の伏線でもないわけ?
そして、誰一人としてあの箱の開け方を誤らなかったってこと?
監獄へぶち込まれたままの武田真治の食料は?
ま、その辺は事務能力機構の職員たる綾瀬はるかが上手い事やったのか。
北大路欣也へ賞金は渡してあげたのかな…
「トゥルーマン・ショー」だっけか、放送されている虚構ってコンセプト、あれに触発されたのかな。

(11/01/23)


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