空中ブランコ

奥田英朗・文春文庫

「イン・ザ・プール」と同じく、これも借りて読みました。
ま、人それぞれ悩み深い人生を送っているって訳だ。
1)新しいパートナー相手に跳べないサーカス団員。
2)先端恐怖症で刃物に怯えるヤクザ。
3)義父のカツラを暴きたい衝動と戦う娘婿。
4)送球が出来ない三塁手。
5)書けない作家。
以下、多少のネタばれありで感想を。

1番目は空中ブランコの演技失敗の原因が新入りパートナーのせいだと思い込み
疑心暗鬼に陥る主人公の心中が痛々しいほどに描かれる。
居心地の良かったはずの場所で、浮いた存在になってしまう焦燥感を描いたのはお見事。
最終的には円満解決に至った様で何より。

2番目は抗争相手のヤクザもチック症で同じく神経を病んでおり、ほのぼの分かり合っちゃう。
なんか良いハナシ。

この3番目だけは自分に起因するのではない。
他の皆は密かにヅラをからかっているが、娘婿ともなるとそうはいかない。
そんな上司であり義父である絶対権力者への微かな反骨。
抑圧しがたい破壊(むしろ破戒?)衝動。
そこに同級生としてDr.伊良部が絡むとややこしい事に。

4番目はルーキーの台頭に心穏やかならぬベテラン三塁手。
新入りを球界の宝と認めている優しさが、弱肉強食の戦いの世界では裏目に出てしまうのか。
ま、レストラン経営も悪くはないだろうし。

5番目は作者自身が言いたい事を友人のフリー編集者に代弁させてるんだろう。
作家が作家について書いてるのを読むと、恩田陸の「三月は深き紅の淵を」を思わずにはいられない。
また、これは準レギュラーキャラのマユミちゃんが最後にいい味出したね。
バイプレーヤーを上手く描くとストーリーに深みが出るので流石。

(08/04/13)


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