蹴りたい背中

綿矢りさ・河出文庫

史上最年少、19歳での芥川賞受賞作。
気にはなってたけど、文庫化され平積みになった所で読んでみようかと。
芥川賞って、文学界の金看板。大御所って感じで難解さが先立つけど、分量は比較的ライトなんだよね。
読後に触発されて、町田康(123回「きれぎれ」)、吉田修一(127回「パーク・ライフ」)もお買い上げ。

芥川賞の受賞基準や、文学界の評価ってよく分からないけど、この作品が斬新なんだって事は分かる気がする。
好きだの嫌いだのふわふわした学生生活ではなく、かと言ってイジメや校内暴力で荒んでいる訳でもなく、
主人公・ハツは斜に構えれば「何も見えてない」と一蹴され、融和しようと笑いかければ「練習では闘志を剥き出しに」と諭される。
自分は傍観者で、輪の外にいて上から目線のつもりだったのに、周囲から見れば自分も世界の一部として組み込まれている。
自分の『存在が完全に消えてしまっているのを確認するのは怖い』んだよね。

そんな中、唯一自分と同じ目線の人物がいた。それが「にな川」クンである。
この「にな川」クンが強烈なキャラ。エビちゃんならぬオリチャンのおっかけ。
初ライブのチケットは当ても無いのに上限の4枚を購入し、ライブ後の出待ちでは思い余った行動に出るし・・・
そんな「にな川」の自己嫌悪を、上から目線で覗き込む。それだけが主人公にとって唯一の救いなのか。

まぁ、間違いなく恩田ワールドとは違った世界観が広がっていた。
それはどっちが良いと言う事ではなく、違うと言うただそれだけ。
ハツは決して理瀬とは交わらないだろう。「にな川」と義国や統が集う事もないだろう。絹代は貴子と夜通し歩く事はないだろう。
私の高校時代がどちらに近かったかも、あまり意味は持たない。
ただし私が蹴りたかった物は自分自身だったかもしれない。
それは過去形ではなく、今でもそうかもしれない。

(07/05/27)


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