裏帯に5篇の概要が書かれている。その通りの短編集なのだが、1つの事件を巡って緩やかに連環する世界観。
おー、こういうの好き。阿刀田高「街の観覧車」がそんな感じだったように思う。
●届かない招待状
なるほど暗転。死別したのだと思っていた父は、親友の義父となっていた。
これは驚きの展開だったけど、その親友側に立つと、秘密を抱えながら生きていたのかと。
仕掛けのための設定が酷。
●帰らない理由
娘を亡くした母親の狂気も空恐ろしいが、恋人を亡くしたキャラを演じる利己愛への批判。
一度手にしたポジションはそうそう手放す事はできないと言う事を言いたかったのか。
足が痺れた時に笑う、という表現が今一つしっくりは来なかった。
●答えない子ども
子育てをしてる人は胸を打たれる話だろう。
ソウくんがふみちゃんの実子ではない、とかそんな展開も考えたけどハズレ。
ソウくんママと直香が、その後よき友達になったかは定かではない。
あとがきの考察に拠れば、むしろいつか離れていく仲だろうと。
だとしても、この一瞬に意味があるのだ。なるほどそれで良いのかもしれないね。
うーん、それにしても良い旦那に育ったな。
●願わない少女
名前トリックは辻村深月みたい。
漫画は、この後に読んだ「いつかの人質」でも使われるモチーフ。
まるで「スロウハイツの神様」のチヨダ・コーキ。
芸術の才能は、芦沢央の底流の1つかもしれない。
●正しくない言葉
ステキな話。やっぱり最後が明るいと読後感が良い。これは「許されようとは思いません」もそうだった。
くるみを亡くした朝子も、今を生きているという感じが窺えて良い。
「女の友情」を描いたとされているが、男性の私よりも女性目線で読むと更に発見があるのだろうか。
特に母娘の関係性を描いた最終話などは、もう少し奥深いモノがあるのかもね。
芦沢央4作目も満足のうちに読了。