レベル7

宮部みゆき・新潮文庫

ちょっとイメージと違った。
まったく関係無さそうな2つのストーリーが交錯し、実は1つの物語を編み上げる。
最近は珍しい手法でもないけれど、20年も前の作品だからな。この頃は斬新だったとか?
だけどね、登場人物が多い割りに感情移入できるキャラは少ない。
読み手に問題があるのかもしれないけど。

序盤はみさおの失踪が物語りのカギとなっているが、『幸山荘事件』が明らかになる後半は
事件後の生き残り2人の復讐譚に様相を変えていく。
村下家の人物も中途半端。家系図まで持ち出しておきながら、
村下猛蔵、村下一樹、宮前孝、榊達彦が描かれる程度。
榊先生の叛乱のモチベーションが分からない。猛蔵の娘でもある妻・みどりや、娘・沙織は
村下家への叛乱を首肯するのかね。
もう1人の娘婿であり、副院長と言う要職についてるはずの遠山先生はほとんど出番無し。

裕司と明恵の2人にしても、序盤の手探り感たっぷりな仕掛けの割には
視力を失った途端に明恵の存在感は急落。恐らく、視力が戻るその瞬間のためだけに
作者から長い間無理させられた感がある。可愛そうに。

物語の伝道師たる三枝は、一癖二癖あるだろうと思っていたけれど
真宮寺義夫とも因縁があったのか。でも、それも強引な気がするんだな。
村下猛蔵との結び付きに必然性が無いでしょ。
みさおも偶々巻き込まれた不幸な少女って感じで、用意された舞台装置とのギャップが
手応えの無さに繋がる。

相馬修二に至っては、物語の最終盤で初登場。ミステリでそりゃないだろ。フェアじゃない。
だから文庫化にあたってはプロローグを設けて、読者の目に晒しておいたんじゃないか?
元々は連載作品だったのかな。書いてる途中で構想変わったのかもな。

いろいろありすぎて、物語の一番のカギが何だったのか分からず終いで物語りは幕を閉じた。
宮部みゆき、こんなんだったかなぁ…

(11/01/29)

■TVドラマ版を見て
ほとんどストーリーを覚えていなかったので、展開が読めずに面白かった。
ここで振り返るだけでも、随分原作とは違ってるみたい。尺の問題もあるしね。
村下先生を悪者にして、裕司と明恵を中心にして、三枝が物語を加速させる。
もう一つ側面で真宮寺舞が祖母の失踪を追う。分かり易く、よくできました。
ドラマ版で復習できて、少し印象を持ち直した感があるな。良かった。

(12/06/16)


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