黄昏の百合の骨

恩田陸・講談社文庫

第二回恩田祭もこれでラスト。目次を見ただけでゾクゾクする。
北見隆さんのイラストも独特の恐怖感を煽るね。

敵は二人いた、って訳だ。となると日記は姉のものか。
なかなか上手いミスリードだったね。
R姉妹は最初から謎めかしく描かれて、終盤で包丁を手にした時に合点がいったんだけど、
まさかそこから更に二転三転するとは。脱帽。理瀬の父親と梨南子の会話とか、すっかり気を許していたよ。
R姉妹は連携していたのかな。否、なんだろうね。
妹の死は本当に事故死だったのか、それとも誰かの仕組んだ罠だったのか。
いずれにせよ演技派の姉は二重スパイの様に、妹の死に動じる事無く理瀬に迫ったが・・・(蓑田さんも影の薄いこと!)
姉の最期は少々軽かったかな。無理やりヨハンの敵の派閥側にくっ付けなくてもねぇ。
だったら、もう少しページを割いてあげても良かったのでは。
私は救いに来るのは父親だと思っていたけれど、なるほど救世主は他にもいたね。

どうやら今後、理瀬と再び見える少年が2人いるらしい。
亘は少年とは呼ばないだろうから、これってどう考えても慎二と雅雪だよな。
確かに2人とも、とても丁寧に書かれてるなと思ったよ。今後使わない手は無いね。
(そんな雅雪を狙っている紫苑の女の子も気になるけどね)
雅雪の自転車に二人乗りするシーンは、数少ない理瀬の微笑ましい一面を覗かせてくれた。
ぜひテムズ川のほとりで、また二人乗りして欲しいものだ。
亘よりは「こっち側」に近い可能性がある雅雪と、どこか毒を秘めている慎二。
きっとこの2人は「黒と茶の幻想」での節子の役回りの様に闇と光のバランスを保つ重要なキャラクターになるとみた。
p179の待っている少年はどっちだ?
また、冒頭とラストの独白は慎二目線だと思うけど、唯一「かたくな」の平仮名と漢字を使い分けた真意はあるのだろうか?

スリルとサスペンスに富む物語ではあったが、原点は決して名が出てこない祖母が残した遺言。
ところが絶対的な畏怖を感じさせる祖母の遺言なのに、これが果たされないから軽い感じが否めない。
理瀬が白百合荘に帰ってきたのは10月で、年内には解体されてしまったから、結局2、3ヶ月程度の物語でしょ。
祖母の残した遺言は「理瀬が半年すむまでは白百合荘をつぶさない事」だったはずだが・・・
よく分からないのは、どうして理瀬に半年住まわせて、ジュピターを見せる必要があったのかと言う事。
祖母の狙いはジュピターとは別にあったのかな。理瀬にとっても、百合に意味を持たせるためとか?
だいたい、あれを理瀬が見つけて何か得するんだっけ。まぁ、父親への得点稼ぎって事?
そもそも北海道の帝国を継ぐのに、何故そこまで皆が必死になるのかと言う根源的な疑問が湧いてきたぞ。

あー、そこで「禁じられた楽園」のクロダグループが敵になるとか。
悪のカリスマ対決で、烏山響一vsヨハンとか。あ、面白そう。
稔や理瀬の父親なら、響一に伍する事ができそうだしね。
いっそ「MAZE」「クレオパトラの夢」の恵弥も一枚噛んだりしてさ。悪役オールスターとか。

北海道の学園の理事長(理瀬の父親の親)は、祖母の後添えなのかな。
でも梨南子が理瀬の父に会うのが初めてというなら、梨南子たちの父親は祖母にとって三番目の旦那で、
理瀬の(そして恐らく稔・亘も)祖父に当たるのは二番目の旦那なんだろうな。
祖母の最初の旦那さんは骨になってしまっているんだものね。

いささか揚げ足取りなツッコミを少々。
慎二が病院に連れて行かれる前に理瀬と話しをしたがるシーン(p226)、あの二人の会話って
例えば慎二の母親とかに聞かれているんじゃなかろうか。車の後部座席に二人を残して母親は車の外で立ってるのって不自然だよね。
また「麦の海に沈む果実」で理瀬が学園にいた頃、ジュピターの記憶を持っていた(あまつさえ手紙を書いた!)とは思えないのだが。
それに学園に送り込まれる直前まで白百合荘にいたのは、朋子を知らないと言う設定と矛盾する。
理瀬の学園での記憶喪失は演技なのか。だとすると、それは何のため?麗子を排除するため?
うーん、それで黎二が死んでしまうのは悲しいね。黎二にとっては麗子との死は、救済であったのかもしれないけど・・・

最後に。
今回は感想をまとめる前に、他の理瀬シリーズを含めてネットで他人の書評を見てみた。
恩田陸に批判的な書評に共通するのは、ラストの尻切れ感。
たしかに恩田陸の小説は残り少なくなると読むのが勿体無いと感じるのは、
せっかくの雰囲気が解決しないで終わってしまう恐怖の裏返しなのかもしれない。
それでも、この空気を味わう事が恩田陸の味わいなのだと思う。と、言い聞かせる私がいる。

しかし、この作品の中では『三月は深き紅の淵を』が全く出てこないのは残念だったなぁ。

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(07/05/06)


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