文春文庫からは初の恩田陸。
タイトルが秀逸だよね。何と無く「蛇行する川のほとり」とシリーズっぽさを感じる。
講談社の理瀬シリーズ(『睡蓮』は新潮社だもんね)のタイトルに近いよね。
では読みながらの感想を。序盤は「禁じられた楽園」に近い展開かなと。
(レプリカントで一瞬「月の裏側」も想起したけどね)
失踪した当人と、捜索を依頼する人間が実はグルだった。
では、呼び出された人間が持っているモノは何だろう。
合理的な説明はしてもらえるんだろうね、と少々疑いながら読み進めていったのだけど、
当たらずとも遠からずだった訳だね。静が持っているのは“血”だった訳だ。
「黒と茶の幻想」のY島にも負けないくらいの湿り気が伝わってくる。
今回の4人は研吾を軸に、優佳利、妙子、そして静。巻き込まれたはずの静に物語が帰結していく。
恩田陸の登場人物って、どこかひねてるよね。みんな素直じゃない。「ネバーランド」がまともすぎると言うのは頷ける。
研吾と静を考えると、「夜のピクニック」の貴子と融は可愛いもんだ。
今読んだ中で一番ホンワカしているのは「夜のピクニック」なんだろうな。
妙子と静が手探りの会話の末に、旅先の魔法の時間に辿り着くシーン。
全体的に灰色のトーンが続く本作にあって、何と無く微笑ましい一瞬。
非日常の旅先の夜だからこそ、思いつく事、言葉に出来る事、あるよね。
と、ノスタルジックな感傷に浸ってたら、この旅は妙子の仕掛けた罠なのか?
二転三転は大いに結構だけど、理論的な破綻は嫌だよ。妙子の喰えないキャラはこの後どうなるんだろう。
妙子から語られた研吾の移住や優佳利の最期も嘘なんだろうか・・・
研吾に時間が無いのも、『曜変天目の夜』の酒寄順一郎みたいな緩やかな死なのか?
暗くて、濃くて、湿っぽくて、ハッキリしない雰囲気。
笑ってしまうくらいタイミングが良い。
祭りは終わったが、恩田陸は止められない。
「禁じられた楽園」の黒さとは異なるトーンなんだなと感じつつ、まだ残り2章あるけどと思ったら妙子の退場予告。
波乱は終わらない。
ラストは研吾の時間の無さ、妙子の結末と物語りは加速する。
敵は外に在らざる、内なるモノか。手紙に記された真相が少しずつ明かされる。
この書き方、ドキドキ感を煽るね。正直、怖かった。怖いって変かな。
彼ら4人の人間関係を繋いでいた物が何なのか。愛憎の裏に潜んでいた物は何なのか。
主要4人がこれほど“退場”する物語って、これまでの恩田作品には類を見ない。
妙子の息子の父親が実は研吾でした、ってオチかとも思った。
4人を濃縮していくと、そんな結論かと思った。でも、伏線は張られていたのか。
斜めの関係って答えに帰結する訳ね。OK、良く出来たハナシだ。