MAZE

恩田陸・双葉文庫

初読みは随分前。
ラストに納得いかずに低評価だった。
この度「ブラック・ベルベット」に時枝満が再登場しているので、振り返り再読。

『鉄条網』が幻覚を見せてるというのは何となく覚えていた、こんな早く明かされるとは思わなかったけど。
三章で、超デジタル化はアナログ化につながりデジタル化社会の脆弱性を、どこか遠くの些細な出来事が
張り巡らされた世界的ネットワークを駆け回り世界を滅ぼすと警句している。
デジタル化の行き着く先はスピリチュアリズムな割り切れないものしか残らない。
これはこの当時の恩田陸の思想の底流にあったのだろう。
その不条理感が、例えば「ユージニア」などに結びつくと思われる。

その三章のラストにかけて、起承転結の『転』だけあって
オカルトめいた謎の声や、テントに押し付けられた手形などの超常現象が現れる。
セリムも出奔し、豆腐の中央部が沈むと、舞台装置は整った。
残る4章の落とし所や如何に。と言った訳なのだけど…
『鉄条網』のトリップだとしても、恵弥と満と、二人で同じ幻覚を見るという設定はご都合主義を否定できない。
また、スコットが課せられていた世俗的な目的が語られると、急に物語が矮小化する。
ヨハンがユーロマフィアの子息だと語った時のようなガッカリ感。
何だか思わせぶりにしていたほどでは無い、という失望感。

最後まで謎は解かれぬまま物語から退場させられる。
でもそうか、これは期間限定で僻地に連れてこられた安楽椅子探偵の物語だから、
謎について想像を巡らせたその後は、現実に引き戻されるのか。
何度も恵弥のセリフで、何故とかどうしてとか聞いちゃダメなの、って念を押されていたものな。
あれは読者に対する警告だったんだな。

神崎家のお姉さま方も名前は明かされていたんだな。
長女・暁良(あきら)、次女・香折(かおる)、三女・光理(ひかり)、四女・和見(かずみ)が恵弥の双子の妹。
「クレオパトラの夢」では和見が活躍する。いずれ他の姉妹の活躍もお目にかかる事があるかな?

(18/09/02)


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