モダンタイムス

伊坂幸太郎・講談社文庫

先輩から借りた後、ずっと積読になっていたけれど、「魔王」も読了した事で、ようやく読破できた。
今回は時差トリックは無く、読み易いんだけど、発想力に追いつけない部分もあった。

「ゴールデン・スランバー」に似ているなぁ、と感じたのは素直な反応の様で、著者自身もあとがきで対の関係を為すとしていた。
底知れない当局に相対した一個人。何を出来る事があるだろう。
そして、何かに辿り着いたとして、そこまでの苦労を考えると、更にそれを疑ってかかる事ができるだろうか。
RPGでラスボスだと思って倒したら、真の親玉はまだ残っていました、って感じか。
1冊通じてテーマになっている虚構は、恩田陸の「Q&A」や「ユージニア」と比較してしまう。
何が本当なのか。何が敵なのか。分かり易いステレオタイプの敵なんかいない。
それは前作「魔王」でも、犬養を倒せばそれでお終いじゃないぞ、と。

アリは賢くないが、アリのコロニーは賢い。
人が利便性を考えて作り上げたシステム、それそのものが恰も意志を持って存続を図るためにふるまう。
官僚制への強烈な皮肉であり、意外にそれそのものが著者の直截的なメッセージなのかな。

誰もが自分の意志で行っていると信じて疑わない行動も、実は大きなシステムに導かれているとすると恐ろしい。
ある行為を細分化していき、一人ひとりの作業は些末なものにしていく、と言うのは
恩田陸「ロミオとロミオは永遠に」で、少しずついつもとズレた事を積み重ねて脱出を図ろうとしたエピソードを思い出した。

今回も個性的なキャラがたくさん出てくるんだけど、多くの人が痛い目にあって大変だったね。ご苦労さま。
五反田さんは視力を失う必要があったのだろうか。
その割に、以降の行動が「それ見えてるんじゃない?」ってくらいに支障なかったりね。
近未来のテクノロジーを併用している、と言う理由付けは為されていたけど。
佳代子のぶっ飛びキャラは、後半は頼もしくもあるんだけど、やはり序盤は意味不明でしかない。

「魔王」「モダンタイムス」の2冊で伝えたかったところは、やはり自分の頭で考えろ、と言う事かな。

(12/09/23)


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