テロリストのパラソル

藤原伊織・講談社文庫
直木賞と乱歩賞のダブル受賞作って事で、たいそう話題になった1冊。
以前に読んだ事があったのだけど、改めて借りて一読。
ストーリーの詳細は覚えていなかったけれど、カネーラの正体は覚えていた。
解説などを読むと大絶賛なんだが、けっこう粗があると思うけどね。

そもそも、これは「偶然」の物語なんだなと。
事件現場で優子と宮坂が出会って知遇を得るのも、そこが菊地の日課の場所である事も。
優子が菊地を目撃するのも。桑野が結婚する事になるのも。
都合よく医学知識に詳しいホームレスが登場するのも。
浅井が菊地の現役時代を知っているのも。

塔子も、現職議員の孫ならそんなにフリーで動けないと思うのだが。
その議員の存在感が全く無いのが不自然じゃないか。むしろ議員秘書辺りが暗躍するとかさ。
MCPから柴山・山崎両家に繋がる辺りや、捜査一課長を詐称し病院を訪れる辺りも
何か唐突で浮いてる感が否めないんだよな。
論理の破綻は恩田陸も同じ? そうかもしれないけど、どうも手放しで絶賛する気にはなれない。
浅井が良いヤツだ、って結論で良いのなら、それがハードボイルドだって言うなら、それはそれで良いけどさ。

学園紛争を世代の出来事として捉える事を菊地に否定させる作者は、
同時に桑野が大儀を語るのを、“単に哀れな人殺し”と一蹴する。
本当は、この辺りが伝えたいテーマなんだろうな。
集団に唆されない、確固たる自我を持てと。
菊地や浅井や塔子の生き方を良しとして、筋を糺そうと言う訳だ。
だから塔子が祖父の力を借りるのはフェアじゃないと言うことかな。
まぁ、玄人受けの1冊だって事で。

(08/05/06)
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