模倣犯

宮部みゆき・小学館

先輩から「楽園」を借りたのだが、主人公は「模倣犯」に登場するキャラクターらしい
と言うので、だったら先に読んでおきたいじゃない。図書館で分厚いハードカバーの上下巻を借り
2週に渡って読破。一回見た記憶がある劇場版もDVDを借りてきて再チェック。

まず、原作を読んだ感想。
恩田ワールドとは違い、「実は!」ってミステリー仕掛けではなく
読者には事件の首謀者も明らかにされた上で、第3部に連なる。
分かってるからこそ、ミスリードに右往左往するキャラクターたちがもどかしかったり
突如表舞台に登場するピースの行方にハラハラしたりする。週刊誌の連載だけあって、常に読者を惹きつけるね。
栗原・高井の事故後の「長寿庵」がどうなったのかなんて、想像しただけで胸が痛くなったよ。

とは言え、由美子の暴走ぶりは次第に目に余るようになり、樋口めぐみと被るなとは私も思った。
しかしあんな最期が用意されていなくたって…。願わくばご両親のその後が安寧であらんことを。

作中で、様々なキャラクターたちが自分自身の視点から発するメッセージがぶつかり、すれ違い、交錯する。
互いに心底理解し合えるなんて理想は詭弁だと思えてくる。
これだけのキャラクターたちを縦横無尽に操る能力は秀逸。物語の重厚さは正に大作と呼ぶに相応しい。
社会派としてのエッセンスもふんだんに取り入れられており、メッセージ性も高い。
それだけに、劇場版ではどの部分を2時間の尺に摘むんだろうと期待半分、心配半分。
連ドラで1クールくらい使ったって足りないくらいだぞ。

少々余談だけど、東野圭吾の「白夜行」もそんな気がするんだ。
基本的に原作擁護派の私だけど、あれはドラマ版が秀逸。と言うかドラマを先に見たからかもしれないけど。
あれだって2時間の尺しか与えられないとなったら、どんな映画になるのやら。

それで劇場版「模倣犯」なんだけど、最後まで見て思い出した。
そうだ、そう言えばこんなラストだった。最低の映画だな。…と思ったけど、DVD特典なのか
「44の不思議」みたいなおまけが良かった。原作に忠実なだけが作品じゃないと。
原作からインスピレーションを受けて、新たな作品に仕上げましたって感じなのかな。
2時間の尺では、ダイジェスト版みたいになるのも已む無しか。
劇場公開後に映画だけ見た人は、「模倣犯」への評価は辛口になりそうだね。

原作ではいろいろ苦労し、あろう事か劇場版では未亡人になってしまった前畑滋子さん。
彼女が「楽園」の主人公の様だ。
次は寝覚め良い作品なのか、いや、そうじゃなさそうだな。もう参っちゃうね。
その他、「模倣犯」には個性豊かなキャラクターがたくさん出てきたのだから、伊坂ワールドや辻村ワールドの様に
どこかでまた出会えたら嬉しいのだけどね。年の割りに小生意気な塚田真一クンが角が取れた大人になって再登場とかさ。

(11/02/27)


茶色い本棚(国内作家)へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る