「蜜蜂と遠雷」が文庫化され、カバー裏扉で「消滅」も文庫化されたことに気付くという有様。
そんな訳で読了は「蜜蜂と遠雷」に後れを取ってしまった。
閉ざされた空港でテロリストを探す。恩田陸の真骨頂たるクローズドミステリで面白くない訳は無い!
そう期待して読み進める。多士済々のキャラクターが登場する中、リニア新幹線が開業しているという近未来である事が判明。
これは拙い・・・
この時点でオチがかなり心配になる。
読み終わってみれば、コミュニケーションに関する話。
固有名詞を廃し、外見の特徴だけで語られるのが分かり難かった、という書評サイトの感想も同感ではあるのだが、
キャラクター目線に於いてはそれだけふわふわした状況であるという事。
情報の非対称性の手探り感がよく顕れてた。
素性の分からぬ者同士ながら、同じ目標に向かって同じ時間を使ううちに、コミュニケーションの素地が芽生えてくる。
例えそれがキャサリンという未知の相手であってさえも。
だけど。やはりキャラクター過多なイメージはある。鳥の巣頭とヘッドフォン男は役割が似ているし、
日焼け男(小津)と幹征も兼ねる事ができると思う。
恩田陸お気に入りの“かしらん”は、上下巻に一度ずつ。
犯人捜しと言う意味では、固有のキャラクター目線で語られる章の主人公を除外していくとだいたい絞り込まれる。
母娘と口の悪い親父が共闘しているのは、何となく分かってきたが犯人は別にいた。
風呂敷を広げた上で、デンタルフロスと耳栓というのもねぇ、
近未来もののオチとしては拍子抜けではある。今やポケトークがあるからな。
数年先という近未来を描くのが一番難しい、というその難易度に果敢に挑んで
尚且つ新聞連載の締切と闘い続けた筆者の努力に拍手して終わろう。
愛すべきキャラクターたち
伊丹十時(鳥の巣頭:伊丹十三) 幼いころにベンジーと接点あり。税関の列で小津と縦並びになる。【いる】
三隅渓(ガラガラ声の女:三隅研次)NPO職員。スイカを貸さなければ足止めされることもなかったのだろうに。【いない】
成瀬幹征(ごま塩頭の男:成瀬巳喜男) カリフォルニアで豆腐工場を営んでおり、甥の結婚式のため一時帰国。スピーチを控えてやや緊張。“孤独な肺炎”ではなくて良かった。【いない】
市川香子(中年女:市川崑) シンガポールの息子が財テクに失敗し、旦那に連絡を取りたがっている。【ギャンブルなんてダメですよ!】
山中貞之(口の悪い親父:山中貞雄) 実は黒澤親子を護衛するための警官。【終盤にこの中にテロリストがいるのかどうかの賭けの答え、いない】
黒澤亜希菜と聖斗(黒澤明) アメリカの証人保護プログラムの対象者。
大島凪人(サングラス男:大島渚) 運の悪い男。アイドルを目指している娘、梨音がいる。聖斗の透視能力では武道館のステージに立っているようだが。【いる】
岡本喜良(ヘッドフォン青年・乗りヒコ:岡本喜八) 飛行機大好きなプロダクトデザイナー。空気を読まない奇抜な発想で物語を前に進める。【いる】
小津康久(日焼け男:小津安二郎) 税関の列で十時と縦並びになる。【いない】
キャスリン(AI:キャスリン・ビグロー)
アギー(コーギー犬) 火薬探知犬。超過勤務ご苦労様。
ベンジャミン・リー・スコット(リドリー・スコット) 言葉の壁を乗り越えようという目的で日本に“営業”にきたテロリスト。全部で4人というテロリスト。で、彼以外の仲間は?