蟹工船・党生活者

小林多喜二・新潮文庫
今、話題の1冊。
ミーハーチョイスながら、買った訳ではなく借りて読んだ1冊。
プロレタリア文学の金字塔とも言える、日本史の教科書でも目に触れたはずの「蟹工船」。
でも、読んだら「党生活者」の方が分かり易かった。どうしても漁とか船の中の記述が難しくて。

村上龍の「五分後の世界」や、恩田陸でも「ロミオとロミオは永遠に」でアンダーグラウンドを描いているが、
紛れも無くこう言う時代や事実があった事を踏まえて、それらの架空歴史小説を読むとまた味わい深いんだろう。
権力との抗争。格差社会と呼ばれる現代で改めて話題になる所以か。

でも現代において、ここまでの行動力を示してまで伝えたいメッセージをどれだけ持ってるだろう。
ちょうど、これを読んでる時に中田英寿のチャリティーサッカーに行って来て63,000人の観客の1人になって思うのは、
誰かの提唱する理念に乗ろうとする人は多いって事。だからこそ、メッセージを発信する最初の1人になれるかが勝負。
そして、誰かの唱えたテーマに賛同する大勢の総意によって、物事が進んでいくべしって事なんだろうな。
1人での行動には限界があるから。

大学で政治学を学んでいる時、富の再分配の必然性についてどうしても明快な解を導き出せなかった。
富める人もいつ何時過ちを犯すかは分からない。
結局、蟹工船の監督だって、資本家から雇われてただけに過ぎず、最後は使い捨てにされた訳だし。
だからセーフティ・ネットが必要で、富める人から貧しい人への富の還元は然るべき。
ここまでは良いんだ。しかし、持てる者は持てる者同士で補完的な互助機能を構築したがるんだろう。
富める人だけで社会が成り立つ訳ではなく、貧しい人達の上に成り立っている相対的なものであるはずなのに。
持てる者同士のコミュニティなどが永続する訳も無いだろうに。

久しぶりに、そんな事を考えさせられた1冊。やはり名著だ。

(08/06/08)


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