東京難民

福澤徹三・光文社文庫

エンターテインメントとして秀逸。次の展開が楽しみにページを繰る。
堕ち始めたら真っ逆様。主人公の人生はどこまでも転落していく。
上を見ればキリがないとは分かっていたが、下を覗くと底はどこまでも深い。
こんな未来が待ってるなら、セーフティネットへの参加にも積極的になるのかも。

J.ロールズの「正義論」の無知のベールは、これを想像しろと言う事だったのか。
知らないことは罪。この言葉が胸にグサリと刺さる。

またキャラクターが濃い。人生のほんの一場面で、一期一会的にすれ違うだけのキャラクターも多いのだが
どのキャラクターも良い味だしてる。
中でも、ティッシュ配りバイトで先輩風を吹かせる軽部や、
治験バイトの去り際の「またどこかで逢おうな」の台詞が良いじゃない。
一期一会と思っていたら、留置場の恩が命を救ったりとかさ。
流され続けてホームレスにまで堕ちた主人公にも矜持はあり、
物語終盤で、ようやく巡り会えた父親から差し出された手を甘んじて受け入れようとしない。
読者目線なら、誰だってそこで父親の元に行けよ、と思うだろう。
でも、当人の気概なんだろうね。手放しで賞讃する気も無いけれど。

これは映画の尺に収めるの大変だったろう。
大学時代の友人はサッパリ削ったと言うし、それに伴いモスマンが削られ、真理も出てこないと。
映画と言う媒体がどこにクローズアップして、物語を濃縮させたのか、これは是非映画も見てみたい。

(13/10/27)


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