ナイチンゲールの沈黙

海堂尊・宝島社

物語のカギを握るのは水落冴子と浜田小夜の特殊技能。
メルヘンなんだか、ファンタジーなんだか。
これじゃミステリでもなければ、グッチーの領域じゃないね。
グッチーは魔法の耳の持ち主でもありましたとさ、ってか。

それでも「ジェネラル・ルージュの凱旋」とパラレルで展開される東城医大の中の物語進行は見物。
冒頭の佐藤先生と翔子の会話だったり、レポートをまとめている小夜を訪ねた翔子だったり、
冴子のラストコンサートを巡る島津やジェネラルら、その辺りをどちらの物語にも登場させたのは
鈴木光司「リング」シリーズの「らせん」「ループ」のエンディングの様で技巧的。
どうせなら一字一句同じにすれば良かったのに。
ただし改めて読み返してみると、やっぱりところどころ破綻している様にも思うが
無粋なツッコミに目をつぶって余りあるエンターテインメントだろう。
田口先生ちっとも診療してないけど、大丈夫か?
これはやっぱり「イノセント・ゲリラの祝祭」を読む前にこちらにも目を通しておくべきだったか。
バイプレーヤーが増えすぎて、高階病院長の存在感が薄い。


テレビドラマでは牧村の死と言う設定以外は、ほぼ全編オリジナルストーリーとして脚本が練られた様だね。
2時間の尺では、あれはあれで見せ所も多く悪くは無いと思うけど、無理して「ナイチンゲールの沈黙」としないで
オリジナル脚本にしても良かったかもしれないね。
原作とドラマの差はネタバレ含め↓の通り。

・時期が違う。原作は「ジェネラル・ルージュの凱旋」と並行して年末。ドラマは「ジェネラル・ルージュの凱旋」の前の9月。
・瑞人の病気が違う。原作の患部は眼だが、ドラマは脳。
・ドラマでは天才脳外科医として西園寺が登場。牧村殺害の実行犯だった助手の三浦もドラマのみ。
・同じくドラマでのみ瑞人の同部屋の岡部巧という小児患者が登場。ドラマ版では彼が重要な役割を演じる。
・牧村の殺害方法が違う。原作は小夜が殺害し、その遺体を瑞人が解剖して殺害時間を混乱させる。ドラマ版では三浦が殺害し、巧に目撃される。
・刑事が違う。原作では加納が出番たっぷりだが、ドラマ版では青木という刑事が淡白に役をこなす。
・内山の出番も違う。原作では思慮の足らない担当医として最後は左遷紛いに系列病院へ送られたり出番たっぷりだが、ドラマ版では牧村にも面会していたりする。
・由紀の出番も違う。原作では薄幸のヒロインとして瑞人の前で命を散らすが、ドラマ版ではキンダーガーデンに姿を現したのみ。
・小夜の特殊技能の有無。原作では複雑な生い立ちを持ち、“歌で見せる”小夜が牧村殺害の実行犯だが、ドラマ版では瑞人が巧を依託殺人したのを見逃した責で病院を去る。
・瑞人は手術を受けたのか。原作では分からないまま終わる。ドラマ版では手術後の瑞人と巧が語らうシーンがあるが、巧への殺人未遂で家裁送致される事になっている。
・猫田師長も原作ほどの千里眼は無いけれど、ドラマ版でもチョコチョコ出てくる。
・冴子や翔子や島津はドラマ版では出てこない。

(10/11/07)


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