追想五断章

米澤穂信・集英社

図書館で「愚者のエンドロール」を探していて偶然見つけた1冊。
うーん。暗い。
「紺屋」シリーズみたいな職人ぶりと、恩田陸の「出雲夜想曲」の様な物語探しでもある。

喪失がテーマなんだろうか。
芳光は父を亡くし、大学を休学の身で伯父の家に居候する。
その伯父の広一郎も妻に先立たれ、古本屋の経営に身が入らない。
バイト仲間の久瀬笙子は舞台半ばで退場する。

大きな回り道をしながら物語は収束に向かう。が、最後の最後まで暗い。
↓以下、ネタバレ整理。

『奇蹟の娘』 寝たきりの少女は演技なのか?
 ⇒ 事件当夜、可南子は眠っていたか、目覚めていたか。
  A1「明け方に見つかった焼死体。それが、哀れな女の末路であった」
  A2「決まりの悪い作り笑顔で、暗がりから女の子が現れた」
『転生の地』 男が死体を損壊した事が明らかになり、家族もろとも殺されてしまうのか?
 ⇒ アントワープの銃声は死ぬ前か、後か。
  A1「そして幼な子までが命を奪われる。私はただ、瞑目するしかなかった」
  A2「どうやら一刀の下に、男の首は落とされたものらしかった」
『小碑伝来』 敗軍の将は自ら死を選ぶのか、妻を犠牲に生き延びるのか?
 ⇒ 事件は他殺か、自殺か。
  A1「どうやら一刀の下に、男の首は落とされたものらしかった」
  A2「明け方に見つかった焼死体。それが、哀れな女の末路であった」
『暗い隧道』 スパイの家族は罠が残ると言う回り道をした隊道から無事に出てこれるのか?
 ⇒ 北里参語は斗満子に駆け寄れたのか。
  A1「決まりの悪い作り笑顔で、暗がりから女の子が現れた」
  A2「そして幼な子までが命を奪われる。私はただ、瞑目するしかなかった」
『雪の花』  浮気者の亭主のために雪の花を摘みに行った妻に愛はあったか?
 ⇒ 可南子の両親の間に愛はあったのか。
    「すべてはあの雪の中に眠っていて、真実は永遠に凍りついている」

アントワープの銃声の真実とは、
斗満子は首吊りをしてみせると参吾に迫ってみせたが、可南子が斗満子の足に縋った事で本当に首が吊られてしまう。
参吾は可南子を大人しくさせるために発砲。それが斗満子の腕を掠めてしまう。

(10/10/31)


■再読して
オチは覚えていたのだけれど、何となく正月に再読。
底流のおどろおどろしさが懐かしい。そうそう、こういう暗ーいハナシだったね。
芳光が真実に辿り着いてしまう、その執念の源が何なんだろう、というご都合主義はある。
だって、金に苦労している休学中の学生さんが、平成5年という時代に10万円×5本の遺稿探しが
それだけのモチベーションになるだろうか?
でも、舞台装置にケチを付けたら小説は始まらないからな。
5つもリドルストーリーを考え抜いただけでも拍手だ。

(18/01/06)


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