揺りかごの上で

大山尚利・角川書店

何かの番組で取り上げられてたのをメモっていて、この度図書館でハードカバーを取り寄せて読んでみた。
著者は4部構成にしているんだが、読んでると3種類の異なる小説を読んでる感覚になった。

第一部は当然ロビンとの出会い。
読んでるだけで、主人公の背徳の一端を担ってる様なドキドキ感。
共犯の横田がいなくなってしまい、千代田には裏切られる。
小島兄弟や担任教師のステレオタイプな淡白さは、かえって主人公の行動の異常さを際立たせる。
イーグルやバッハのエピソードをチラチラ挟み込むのも、普通のやんちゃぶりを比較対象とするためか。
里穂と一緒に解決策見出す辺りが第一場のヤマ場。
ちょうど並行して読んでた笹本稜平「時の渚」みたいに、真の家族とはみたいなテーマの部分。

第二部はその解決策(虹の家)の寸前でクミ登場。
外出さえしなければ、違った未来があったのだろうか。
クミという狂気の対立軸が現れ、望月峯太郎の漫画「座敷女」みたいな展開で急にスプラッター度が上がる。
ただし、クミの存在って何だったんだろう。確かにクミの家族、特に肝心のマーちゃんの父親の存在感はないし、リアリティも無い。
警察が動いたなら、逃げた後のクミにだってアシが付きそうなもんだが。
ここの部分は山田悠介「×ゲーム」みたいな不条理スプラッター小説。

第三部は東野圭吾「手紙」や真保裕一「繋がれた明日」みたいに、犯罪加害者・服役後の社会復帰の厳しさを描く。
懇願するかの如く、地下世界から足を洗う様に熱弁してくれた名も無き男性。
大王、ピノキオ、ドルフィンで出会った人たち、そして兄との再会。
私の一押し映画「ショーシャンクの空に」の様に心温まる話で幕切れかと思ったのだが…

ラストは何がきっかけになったのか、再び狂気爆発。
時計のエピソードは、『止まった時計が指し示した幸福よ、もう一度』と言うことなのか。答えは312頁に。
じゃあ、風船のエピソードは何なのか。彼の孤独さを訴えているのか。
今から振り返っても、あの時の自分にかける言葉はないって事は、何度やっても再び悲劇を迎えるのが必然だったという事か。

恩田陸や辻村深月ともまた異なる、物凄く暗い、救いの無い話なんだけど、
多面的な書き方など、それはそれで新鮮な世界観だった。

(09/03/16)


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