あとがきと、スペシャルインタビューを読み、恩田陸が確信犯である事が分かった。
敢えて物語を終息させずに、読み手に委ねるようなエンディング。
でも、ストンと落ちる様な物語が良いって言ってなかったか?
ちょうど転換期にあったのが、「黒と茶の幻想」だったそうで。
確かにキーマンである蒔生で完結するのではなく、一番“まともな”節子の視点で締め括られた。
今回の出だしは、「木曜組曲」を思わせた。
閉ざされた空間で、視点を変えて互いの心中を探りあう。
歪んだ家族像と言うのも恩田ワールドの真骨頂。
前述の彰彦と紫織を思わせるような、時光と桜子の歪んだ姉弟愛。
歪な家族は2人だけではない。
第一変奏で死んだはずの人間が、第二変奏で平然と現れる。
第二変奏、第三変奏でも死者が出るが、なるほどこれは現実ではなく幻。
共有されたイメージなのか。消してしまいたいと言う願望か。
消される人間は全て女性である事を考えると、
主題で描かれているのは消した5名それぞれに通じる決意だったのか。
でも辰吉はバスじゃなく、自分の車で来たんだっけ。
天知先生も傍観者として狂言回しに一役買うのだが、
味のある傍観者は「蛇行する川のほとり」の真魚子、「まひるの月を追いかけて」の静などの例がある。
もっとも、傍観者でばかりもいられず十分巻き込まれているんだけどね。
厭世的、自虐的なのはちょっと「月の裏側」の多聞テイストも入ってるな。
戯曲との交じり合ったスタイルは読みにくかったけれど、
あとがきを読むと、これこそが書きたかった事の様だから仕方あるまい。
イマイチ、何を導こうとしているのかが分からなかったが。
今回も腑に落ちない点は多々あれど、それが作者の意図通りならばしょうがない。
読んでる途中のワクワク感を楽しめたから良しとしよう。