木曜組曲

恩田陸・徳間文庫

そうそう、こうでなくては恩田ミステリ。
作家が作家について書くのは、「三月は深き紅の淵に」で衝撃を受けたのだけれど
今回は揃いも揃って登場人物が作家ばかりときたもんだ。
女性同士の会話って、こんな感じなんだろうね。
「ネバーランド」の男子校の生徒4人の会話といい、世界観がリアリティに優れているのが素晴らしい。
冒頭の「たけくらべ」で、古典回帰なのかと身構えたものの、そうでは無くて一安心。
宮部みゆきみたいに、中世へ言ってしまうと少々興味が失せてしまうのでね。

重松時子の死の真相を巡って、修羅場が川渕静子→林田尚美→綾部えい子→塩谷絵里子と回っていく。
これが推理小説ならば、残った杉本つかさが犯人なのかも。実際、途中でつかさを犯人かと疑っていた私。
尚美がお土産で持ってきたチーズケーキでも誰か死ぬんじゃなかろうかとね。
でも、これは推理小説ではなくミステリだった。えい子さんの料理に劣らぬ極上の味を堪能できました。満足。

読み終えた後、即DVDを借りてきて映画版も見てみました。そうか主人公は絵里子か。
納得。私も絵里子が一番好きなタイプだな。クールで理知的で。つかさのカラッとした奔放そうなところも良いんだけど。
時子の死については、映画版の解釈の方がより分かり易くはなっていたね。
その反面で、原作にほぼ忠実なのに何故だか『読み手』について原作で執拗に書かれていた部分が
映画ではバッサリ削除されていたのが不思議だった。監督は共感しなかったと言う事か。
田中芳樹も「銀英伝」の中でアッテンボローに『演奏されない名曲は無い』と言わしめたけれど、聴衆については語らなかった。

作家が読み手を意識している事、その事を書いてしまうのって、勇気がいる事なんだと思う。
5人のキャラクターのセリフとして恩田陸の本音が告白されている、と言う意味でこれもノンフィクションか。
あるいはドキュメンタリー小説なのかな。絵里子が主人公である訳だ。

絵里子は事前にどこまで知っていたのか。当時の『目撃者』としては、どこからが新たに気付いた事なのか。
また、静子はいつから全貌を見通したのか(パスタソースに気付くのは不自然なほど早過ぎだと思うんだよね)。
やはりこの心理戦は、映画よりも原作の方が表しやすかっただろうね。
ただし映画も原作の補足として鑑賞するには秀逸。キャストも豪華。
主人公の絵里子に鈴木京香。静子が原田美枝子、つかさは西田尚美で、尚美が富田靖子。えい子が加藤登紀子で、時子が浅丘ルリ子。
原作が99年に刊行され、映画化は2年後の01年だったみたい。まだ恩田陸を知らなかった頃だ。
室内劇だから制作費も安かったんだろうなと思ったけど、得点映像の監督インタビューを聞けば確かに料理にカネがかかってそうだな。

セリフ回しなど、原作にほぼ忠実な映画だったけど、肝心な時子の死は180度違う解釈だった。
映画版では時子の死は決意の自殺。原作では時子の使った毒薬は皆を殺すための毒。
でもそれなりに整合性取れてるのは不思議だね。
些末なツッコミは、映画版で時子が毒の溶かれた水を飲み干し、更にカプセルも飲み込んじゃったシーン。
あれだとカプセルを飲んだのと、水に溶いてから飲んだのとの違いが分からないんじゃないかな。
まぁ、コップに付着した微量な毒が検出されたって事か。

次に映像化される恩田陸作品は何だろう。
「三月」シリーズは規模が壮大すぎて、2時間程度には収まらないし、
「常野物語」の超常現象ではSFXの制作費がバカにならんだろうし、
「puzzle」みたいなのは視覚的に見せるのも良いかも。
「MAZE」は正直言って未だピンときてないから、ハリウッド映画もビックリする様なオープンセットで映画版見てみたいかも。

(07/04/28)


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