向日葵の咲かない夏

道尾秀介・新潮文庫

あとがきに書かれてる通り、好き嫌いは分かれるだろう。
私は一読した後、否定的な感想を持ったのだが、
よくよく考えれば恩田陸の「夏の名残の薔薇」も似たような内面世界を描いた不条理な展開だった。
恩田ワールドなら許せて、道尾ワールドを許さないと言うのは狭量か。

犯人はズバリ岩村先生だ!
と、そう思って読み進めたら呆気なくS君がそれを暴露する。
テーマは犯人探しどころじゃないんだな。謎はもっと他にある。

お父さんに見えたモノは何だったのか。
お母さんがゴミを捨てない理由は?

スミダさんにも見えていた理由は明かされる。
ミチオのどこか加害者心理を臭わせる後ろめたさも、
S君に漏らした言葉や、母親に嫌われる理由と下駄箱の中の植木鉢の意味と共に最後に明かされた。

トコ婆さんがネコで、ミカはトカゲ?
すると、60cm角の百葉箱に隠れちゃう爺さんや、はたまたミチオも虫サイズなのか?
ミカは3歳児にしては大人すぎる、あとがきにも指摘されたこの点にも理由があった。
トコ婆さんのところにミカと二人で出かけるのに、母親に止められないのは不思議だなと思っていたんだ。
でも駅員の回答だったり、トコ婆さんの死を報じたニュースやS君の母親のコメントだったり、
いろいろ不自然なところが気になってしょうがない。
尾行や先生の家への侵入や、お爺さんの過去のトラウマは何か強引。
S君の2度目の最期は、結局ミチオの独り相撲。
腰が曲がったとは言え70歳の老人が、たかだか10歳の子供との格闘で命を落とす事になるのも不思議。
ツッコミどころは満載だと思うんだが。

自分だけの内面世界が作り上げる狂気。
岩村先生にも、古瀬さんにも、ミチオの母親にも、そして誰もが持っている。
この世界は、どこかおかしい。結論はそういった事なんだろう。

(08/08/11)


茶色い本棚(国内作家)へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る