象と耳鳴り

恩田陸・祥伝社文庫

交差点の様な作品。
もしくは「世にも奇妙な物語」の様なショートストーリー。
推理小説だと自称している。どうしても「推理小説=怪人二十面相」的な発想が湧いてしまいピンと来ない。
でも推理小説であれば、嬉しかったのは『待合室の冒険』はタネを読めたこと。
関根家を中心に「六番目の小夜子」の関根多佳雄、「puzzle」の関根春、『図書室の海』の関根夏
果ては関根家のみならず、「MAZE」の時枝満も現れる。
『机上の論理』で春と夏は2つ違いとあるのだが、
春は3番目のサヨコ、夏は5番目のサヨコに鍵を渡すだけのサヨコだったはずで計算が合わない・・・
まぁ、細かい揚げ足取りは愛情の裏返しって事で。
それにしても、同じ祥伝社でも「puzzle」の密度の薄さに比べて、字が小さくない?正直読むのが疲れた。
簡単に各話に感想を。

■曜変天目の夜
関根家の母、桃代さん登場。弁護士となった関根夏も登場。婚約者は指揮者だって。まさか寛では?

■新・D坂の殺人事件
よく分からない話。これで本格推理なのだろうか。本当に被害者はシャブ中毒だったのか?堕天使だって面白くも無い。

■給水塔
散歩男こと時枝満登場。なるほどこんな安楽椅子探偵の実績があった訳ね。都営浅草線の中延駅ならシンパシィを感じる。江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』は恩田陸ワールドのいろんな所に現れる。 水の話しには「月の裏側」を想起させたりもする。給水塔の鬼は、魔術師の犬と同じじゃない。

■象と耳鳴り
表題作。これを選んだ理由は?裁きの日を待つ老婦人。老主人も象を待っているのなら、それは何に対する裁きだと?

■海にゐるのは人魚ではない
「puzzle」よりのんびりした関根春が登場。よくもまぁ、たまたま耳にした会話からここまで話しを想像するもんだ。 でも、そう考えると黒田志土の気持ちも分かってくるのか。あれ、黒田って「禁じられた楽園」のクロダグループとは関係ないよね。 関係あれば、遠い所で理瀬ワールドと関根一家が連環するんだが。

■ニューメキシコの月
貝谷さんの1回目の登場。核開発が人類の緩慢な自殺である、と言う壮大なテーマを描きたかった? それと自殺志願患者のとどめを刺す事のつながりって、それほど美しくも無いような。 これだから本格推理は分からない。

■誰かに聞いた話
桃代さん再び。 ど忘れした事。思い出したいのに、思い出せない事。 そんな事を思い出せた瞬間、何が頭の中の引き出しを開けたのか、思考を辿るとこう言う事なのかも。 この些末な事象の連続性って、「ドミノ」の発想とかに繋がってんのかな。

■廃園
何と無く「木曜組曲」を思わせる雰囲気。多佳雄の従兄弟の結子登場。その娘、結花とは従兄弟半ってやつだ。 関根家はみな順当に育っているから、子連れバツイチの役は結花にあてがわれちゃった。白い服の女の人って?

■待合室の冒険
関根春、再び。これは推理できたので満足。ヒントはやっぱり7時3分かな。

■机上の論理
なるほど、春と夏だけでも賑やかなのに、秋が入ると空回りしそうだ。 と言うより、いくらT大に受かってもこの兄姉を向こうに回しては、秋が気の毒だね。 関根隆一も中々の切れ者と見た。再登場はあるのか。

■往復書簡
「Q&A」の元ネタ?こんなに長い手紙って書くのも読むのも大変。

■魔術師
貝谷毅氏、再び。『集団の外側に発生する意思』は「月の裏側」か。「六番目の小夜子」も底流はそのテーマなのかも。 白?の語る都市伝説、私の就職活動中も“業界大手N証券の内定を断ると会議室へ閉じ込められ、 翻意を強要されて自分が選んだ内定先に内定辞退のTELを懸けさせられた上で、 やっぱりN証券の内定は取り消される”とか“喫茶店で頭からホットコーヒーを掛けられる”とか聞いたもんだ。

(07/05/20)


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