蒲公英草紙

恩田陸・集英社文庫

常野物語の長編。
恩田陸が苦手と称する、一人称(峰子)からの視点で物語が進んでいく。
後世から過去を紐解いているのは、田中芳樹なんかの雰囲気がある。

槙村というクローズドな世界が舞台なため、登場人物も多くなりすぎずに破綻も無く。
聡子が舞台から去った後、峰子も槙村を去り、視点が“現在”に移る。
常野の力を持ってしても、先の大戦は止める事ができなかった。
常野はみんなの一部だと言うのなら、それはつまり時の総意が戦火の拡大をもたらしたと言う事か。
椎名が新太郎の純粋さを恐れたのは、そんな国民の右傾化を憂いたからか。

政治と恩田ワールドは相性が良くない様に思うのだが。
未読の「ねじの回転」も二・二六事件が舞台みたいだから、こんな感じなのかな。
「ロミオとロミオは永遠に」など架空歴史小説よりは、現代の心理戦を描いてもらうのが良いな。

ツル先生が出てくるかなーと思ったけど、出なかったね。
写真の中にはいたみたいだけど。

峰子の周囲のキャラについて少々。
秀彦兄さんはその後どうした?
母親心理としては今回の槙村の奥様が峰子に対して抱いた感情は、
「蛇行する川のほとり」で毬子の母親が真魚子を憎んだ感情に通じる。
恩田版女性デュオの在り方としていろんなパターンがあるもんだね。
聡子と峰子(本作)
貴子と美和子(夜のピクニック)
理瀬と憂理(麦の海に沈む果実)
妙子と優佳利((まひるの月を追いかけて)
香澄と芳野、真魚子と毬子(蛇行する川のほとり)
などなど。いずれも魅力的な女性ばかりだ。

最後に。
表紙のタンポポ畑は今年のGWに訪れた蓼科の途上を思い出させた。

(08/05/31)


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