繋がれた明日

真保裕一・朝日文庫

つまり、「短気は損気」「人の気持ちに立って考えましょう」と言うことか。

まぁ、こう言うシチュエーションはあり得てしまうよな。
今の世に普通に暮らしていれば、腹の立つことも多い。
その度にキレていたら、そしてそれがエスカレートしたら・・・
いつ加害者に、被害者になってもおかしくない世の中。

それでも当事者になるまでは、テレビの中だけの別世界の出来事と思っちゃうよね。
実際、身の回りを見渡しても『臭い飯を食った』人なんて思い浮かばないし、
その立場で考えろと言われても無理からぬこと。

ただ、受刑・服役を済ませてショバへ出てきた若者の観点から書かれた本作を読むと、
その心中も分からないこともない。確固たる意思ではなく、アクシデントの延長で
起こしてしまった事件。そう言う思いを捨てきれず、事実を受け止めきれない主人公。
別にシンパシィは感じないけれどね。寧ろ繁樹の方が、キャラとしての成長を感じさせるよ。

鶴子の陥穽に嵌る辺りからのクライマックスは、TVドラマ見なかった私にも
何と無く想像できるよ。ただ、その時点では残り少ないページでどう収めるんだろうと
思ったけれど、なるほど登場人物を駆使してそう片付けたか。最後の見舞いシーンなんかは
刹那的な盛上りはあるけれど、本当はもっともっと長く続く重いシーンの一端なんだよね。
本作やドラマには現れない、本当の戦いがそこにはあるんだろうね。

小笹勇はその後どうなったんだろう。日野の心の傷が癒される日はやはりこないのだろうか。
まさみと朋美はもう会ってないんだろうか。浩志の身の回りにはこんな悲劇は転がってないのだろうか。
作者は脇役のキャラクター設定が上手だね。『ダイスをころがせ!』の時よりは好意的に読めた一冊。

新聞の縮刷版の社会面に出てくる事件の背景を想起するシーンが一番印象的だったかな。
なるほど、そう言う事なんだよね。事件の数だけ被害者と加害者がいて、それは無限の
悲しみの連鎖となる。戒めよう「短気は損気」だぞ。

(06/10/03)


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