EPITAPH東京

恩田陸・朝日文庫

「蜜蜂と遠雷」で待望の直木賞受賞してから、なかなか文庫化せずにハードカバーが何冊も刊行された恩田先生。
やはり直木賞受賞という看板は、本が売れるのだろうか。
売れるうちにハードカバーでも稼ごうという、出版業界の総意だったのかしらん。

さて、久しぶりの恩田ワールド。面白いじゃないか。
どうやら、これは独自の世界観ではなく、現代の東京を舞台にした物語なのだな。まず少し安心。
都市と物語とを巡るハナシでもあり、都市の歴史という一面もあり、はたまた恩田先生が大好きな戯曲にも絡んでいる。
広げすぎた風呂敷をどう畳んでくれるのか、さっそく心配になってしまうけどモヤモヤした世界観は恩田作品の真骨頂。

吸血鬼を名乗るキャラクターが登場したことで、ゆうきまさみの「白暮のクロニクル」を思い出す。コンビニで立ち読みしてた程度だったけどね。
作中の主人公である「著者K」は、どうやら戯曲を書いているという設定の様だ。これは「ユージニア」で『忘れられた祝祭』を書いていくような感じ。
まるで、物語が成る木のお話のようでもある。
そこに、著者Kの友人である、吸血鬼の視点の場面も挟み込まれ、遂には『エピタフ東京』そのものと、ネタ証しで上演メモと言う形を取る。
ワクワクするよ。ただ、個人的にはこの上演メモというのは蛇足であったような気もする。
『エピタフ東京』が、アルファベットでは無くカタカナ表記というのは、カタカナになった時点で日本文化に取り込まれてしまった、もはや別物という暗喩か。

で、結局はこのラストな訳ね。これ、完全に楽屋ネタというか・・・
恩田ワールド全開だね!と言って喜んでしまえるのだけど、門戸を開く作品ではないよな。
フォローするつもりじゃないが、私は好きだったよ。
文庫化にあたって、スピンオフ『悪い春』を加えることで、作品の完成度というか、満足度を高めようとしたのは出版社の意向では無かったか。

ただ、この『悪い春』を加えたことで俄然パラレルワールド感が出てしまい、三崎亜記「となり町戦争」のようになるね。
何かこうして自分たちの読書歴を振り返る一冊、という体験をするには良い本かもしれない。
まるで「三月は深き紅の淵を」で、本について書かれるというテーマ設定に身震いをしたような体験をした人がいるかもしれない。

やっぱり私は恩田陸が好き。
今回、初めてサイン本を買ってみたのだ。大切にしよう。

(18/04/23)


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